■大人からアクションを
子どもの自殺リスクが見逃されてしまう理由は、他にもある。高校生約1万人のデータを北川さんたちが解析したところ、自殺の危機が高い子ほど助けを求めていないことがわかった。それは、北川さんがRAMPS開発に向かうきっかけにもなった。
「死にたい気持ちが明確になるほど、助けを求めなくなる傾向があります。周りが見えなくなってしまうのかもしれない。そうであるなら、大人の側から積極的に手を差し伸べていかなければなりません」
RAMPSの1次検査の中には、「これまでに、生きていても仕方がないと考えたことはありますか?」という質問がある。こうした質問にどう答えるかだけでなく、答えるのにかかった時間もリスクを測る指標となる。「助けて」と言えない子どもの迷いが、回答にかかった時間に表れるからだ。
しかし、自殺に関する質問を子どもに対してすることで、追いつめたり、背中を押すなどの危険性が高まることはないのか。
「国内外の過去の研究において、『自殺について質問することが、自殺リスクを高める』という研究結果は確認されていません。むしろ聞くことを恐れ、『心配しているけど、そっとしておく』という対応をしたがために、子どもの命が奪われているのが現状です」(北川さん)
子どもの自殺対策は、子どものアクションを待つのではなく、大人から。そういった意味でも、先のPCOPの活用は、よいきっかけになるかもしれない。
作成する際の注意点を荻上さんに聞いた。
「まずはお互いの身の安全を確保すること。その上で、『コントロールしない、否定しない、問題を解決しようとしない』ことを意識してください。特に“解決欲”には注意が必要です。これは支配欲に重なるからです。『パパの場合はこうかな』などと会話をしながら、それぞれが自分のものを作るのがいいと思います」
夏が終わり、疲れているのは大人も同じ。子どもと一緒に「心のAED」を作成することは、子どもの自殺を未然に防ぐだけでなく、将来の自分をも救うことになるかもしれない。
(ライター 黒坂真由子)

※AERA2023年9月4日号

