死にたい気持ちから実際の死に至るまでの間を食い止める「PCOP」は簡単に準備できる。詳しくは「ストップいじめ!ナビ」のホームページで無料公開している

 人は死にたい気持ちが強いほど、助けを求めなくなる。見守るだけでは、子どもの命は守れない。夏休み明けに特に増える「子どもの自殺」を防ぐためにできることは何か。AERA2023年9月4日号から。

* * *

 9月1日を挟んだ数日間、命を絶つ子どもが年間で最も多くなる。

「2015年版自殺対策白書」には、約40年間を集計した「18歳以下の日別自殺者数」というグラフがある。冬休み、ゴールデンウィーク、春休み、夏休みの後に山があり、中でも9月1日が最も多く、数字は130を超えている。それだけの子どもがこの日、命を失っているのだ。

 子どもたちを守るために、どうしたらいいのか。

 NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事で、長年いじめや自殺問題に取り組んできた評論家の荻上チキさんは「心のAEDを準備して」と言う。

「死にたい気持ちに対処するための『心理的危機対応プラン』として、私たちが作成したのが、PCOPです。これは、消えたい、死にたいという気持ちから、実際の死に至るまでの間を食い止めるツールです。心の心肺蘇生法や心のAEDと考えてください」

■ストレス対処法多めに

 PCOPの元になったのは、米国の臨床心理学者が米軍人の自殺対策として開発した、短時間でできる認知行動療法「危機対応プラン」。このプランを実施した兵士の自殺企図は、標準治療を受けた兵士と比べて76%減少したといい、これを日本向けに、だれもが使えるようにコンパクトにアレンジしたのがPCOPだ。「ストップいじめ!ナビ」のホームページで説明のリーフレットが無料公開されており、専門的な知識がなくても、自宅などで簡単に実施できる。

 PCOPに必要なのは、紙とペンだけ。スマホやパソコンでも代用できる。

 上のチャートの例にある五つの項目を、スマホサイズの小さな紙に書き出す。そして常に見ることができるようにしておく。ただ、それだけだ。

おぎうえ・ちき/1981年生まれ。評論家。最新刊『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』(共著)など著書多数

「一番大切なのは、『セルフマネジメントの方法』です」

 と荻上さん。これは「コーピング」と呼ばれ、ストレスを感じたときに行う意図的な対処法のこと。その方法が多いほど、ストレスを上手に和らげることができるという。

 例えば、普段はゲームや漫画でストレスに対処している子も、布団から起き上がるのも厳しいときには、それらの行動でさえ体力を削られてしまう。

「やりやすさ・やりにくさ、時間的・金銭的な強弱なども考え、体力のないときにもできるコーピングも想像しながら入れておくことが大切です。思いついたときに、足したり引いたりしながら多めに用意しておけるといいですね」(荻上さん)

 実は「死ぬ」ということも、一つのコーピングだと荻上さんは言う。ストレスへの対処という意味では、リストカット、飲酒、ドラッグ、リスクのあるセックスなども全てコーピングだ。

次のページ
自分や他人を傷つけないコーピングとは