■傷つけない方法を用意

「コーピングの中には、有害なものや元に戻せないものがあります。それが自分に向かえば自傷行為や自殺に、他人に向かえば犯罪や殺人になる。それらをなるべく害がないものに置き換えていくことがコーピング手段を考える上で重要です。例えばリストカットをしてしまうのであれば、その前に冷たい氷を握る、輪ゴムを腕につけてパチパチするなどのコーピングを書いておく。自分や他人を傷つけないようにコーピングの有害性を下げることも、PCOPでできることの一つです」(同)

 先に紹介した「ストップいじめ!ナビ」のホームページに公開されているリーフレットを見てみると、「ヘンな顔をしてみる」「壁をひたすら押して感覚を味わう」といった無意味なことから、「ベッドを殴る」といったストレスを発散させる行動など一人で簡単にできるコーピングがたくさん挙げられている。

 最初から、無理して全ての項目を埋める必要はない。特に「警告サイン」は、本人であっても気づくことが難しいという。

 見過ごされがちな子どもの自殺のサイン。それを見つけようとする試みが、中学や高校など学校現場で始まっている。

■精神疾患発症のピーク

 自殺リスクや心の不調をみつけるシステム「RAMPS」は、タブレット端末で11項目の質問に回答する仕組みだ。新潟県内の高校61校のほか、長野県や東京都などの一部の学校で、集団検診の場や、保健室の来室記録代わりに使用されている。開発者である東京大学大学院教育学研究科特任助教の北川裕子さんは語る。

きたがわ・ゆうこ/1985年生まれ。東京大学大学院教育学研究科特任助教。一般社団法人RAMPS代表理事。自殺予防ツールRAMPSを開発

「自殺の原因ともなる子どもの精神疾患は、体の不調として表れることがあります。そのため、体調が悪いだけと思われてしまうのです」

 思春期は、うつ病や統合失調症など精神疾患の発症のピーク。これらの精神疾患は、早期発見と早期治療が重要で、放置すれば子どもの自殺リスクの大きな要因になるという。子どもの隠れたSOSに気づくために、周囲の大人はどのようなことに気をつければいいのだろうか。

「想像力をもって、体の訴えに注目してほしいと思います。食欲がない、眠れないと訴える子の中には、死にたい気持ちを抱えていたり、自分で自分を傷つけている子がいるかもしれないからです」

 北川さんら研究グループが行った中高生約2万人を対象にした調査では、食欲不振や不眠の訴えのある子は、ない子と比較してそれぞれ約6倍希死念慮を抱いている傾向があった。自傷行為は約4倍。つまり、「食欲がない」「眠れない」は、子どもが発する「助けて」のサインの可能性が高いということだ。

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死にたい気持ちが明確になるほど助けを求めない