相撲で身に着けたもうひとつの基礎
それから、俺が相撲で身に着けた基礎がもうひとつ。それは魚の捌き方だ。下っ端はちゃんこを作らなければならないが、まず最初にやらされるのは洗った食器を水ですすぐこと、次は食器を洗う、それから鍋に野菜を入れるようになり、その上になったようやく味見をして調理ができるようになる。
ちゃんこ番にも序列があるんだ。それでイワシやアジなんかの小さい魚を捌けるようになって、最終的にはアンコウも吊るし切りにして捌くようにもなった。下っ端のころは何百匹というイワシのはらわたを出して下処理をしたり、夕方になれば外に出て200匹からのサンマを炭火で焼いたりね。
当時の相撲部屋での朝は大人数で大声出して四股を踏んで、夕方になると大量のサンマを焼きまくる。まったく、今だったら絶対にできないよ(笑)。当時は部屋の近所の人も、相撲部屋はそんなもんだと思って許してくれてたんだよね。
兄弟子の見様見真似で魚を捌けるようになって、だから相撲取りは引退するとちゃんこ屋を開くんだ。この修行もセカンドキャリアに生かせるね。俺もプロレスに行っていなかったら、どこかでちゃんこ屋をやっていたと思うよ。
プロレス転向後受け身、受け身の毎日
プロレスに転向してからは受け身、受け身の毎日で、そればかりやらされていたよ。相撲で言えば四股と鉄砲だね。それができるようになると、リングに上がって模擬試合だ。若手レスラーはよくリングサイドで試合を見てるだろう。俺もそうやって見様見真似で覚えるから、リングに上がって試合らしいことはすぐにできるようになる。あくまでも、見様見真似でしかないということも付け加えておくよ。
それから、技を7つも8つも積み重ねて相手にダメージを与えられるようになるまでには、キャリアが必要だ。誰だって形はマネできるけど、しっかり受け身を取ってダメージを受けないようになってようやく一人前だ。俺もそうなるまで10年近くかかったよ。