鉄砲も必須科目だ。四股を踏んだら、鉄砲を500回と、必ずやらせられる。鉄砲柱に全体重をかけてやらないと、兄弟子からまた「手を抜きやがって!」と怒られるから、一発一発、全体重をかけてやらなければならない。これも疲れるんだよ……。
ただ、基礎となる四股や鉄砲は地味な稽古だけど、二所ノ関部屋の大横綱、大鵬さんでも必ず、四股を30分間踏んで、股割りをして、鉄砲をやってという基礎を繰り返していたから、下っ端の俺らもやらざるを得ない。
やっぱり横綱のそういう姿を下の者は見ているんだ。その後に、出稽古で来た琴櫻関や長谷川関、北の富士さんとの取り組みを見るのも勉強になったよ。まあ「琴櫻は頭がデカいなー」なんて思ったりもしたけど(笑)。
大鵬さんは右も左も強かった
四股と鉄砲、股割りが終わったら、部屋内の力士同士での申し合い、ぶつかり稽古があって、その間に自分の型を自然に習得するんだ。俺の場合は左四つ。「嶋田は左強くて左ばかり使っているが、右を使えるようになったらもっと強くなる。だから右を鍛えろ」と親方によく言われたが、結局、右手が使えないままだった。
大鵬さんは右も左も強くてどっちも使っていたけど、人間の習性だから意識して両方使うのは難しい。玉乃島は右四つ、輪島は左四つと、力士によって必然と違いが出る。
俺はさらに「お前は背が高いんだから突っ張れよ」と言われて、佐田の山さんや北の富士さんの突っ張りを見様見真似で取り入れたんだ。本当は組んだ方が楽だし、突っ張るときは相手の顔がモロに見えるからやりづらいんだよね。
だから、突っ張りがうまい力士はみんな気が強いんだ。二代目の麒麟児と富士櫻はお互いに気が強く、突っ張って好取組になって、当時の天皇陛下が思わず身を乗り出して観戦していたなんてエピソードもあるもんね。