がんの治療実績を「数」で比較をすると、全国から患者が集まるがん専門病院や人口の多い大都市圏の大学病院が上位を占めることになります。しかし、そうした病院がない地域では中核病院、市民病院や総合病院などがその役割を担うことがあり、大学病院と同等の医療水準を求められることも珍しくありません。福山市民病院(広島県福山市)もそのひとつで、肝がん治療において全国24位、中国・四国地域5位です(週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2023』調査による、2021年治療数)。これだけの実績を上げられる理由を探りました。
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本企画「『手術数でわかるいい病院』ランキング上位の証し」は、いい病院ムックのランキング上位病院を取材し、「数」だけでは見えづらい各病院各診療科の特徴や試み、強み、展望などをリポートしていきます。
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福山市は人口約45万の工業都市。世界最大級の製鉄所を擁するほか、造船、繊維、精密機械などの製造業が集結し、それらを輸送するための通運企業も本社を構えるなど、中国地方を代表する都市のひとつに数えられます。
しかし、地理的に見ると広島市と隣県の県庁所在地である岡山市とのちょうど中間にあることから、医療面においては「大学病院の隙間」という位置づけに置かれています。そのため福山市民病院が地域の基幹病院としての重責を任されています。同院で肝がん治療の実績を支えているのが、外科科長の門田一晃(もんでん・かずてる)医師です。
大学を卒業後は首都圏の大学病院やがん専門病院など、日本を代表する大規模病院で研鑽(けんさん)を積み、10年前から故郷に近い福山の地で、肝がん手術に特化した診療に従事する門田医師。これまで腹腔鏡(ふくくうきょう)による肝切除術の執刀症例数は520件、ロボット手術も20件に上ります。これは地方の市民病院としては、かなり健闘しているといえるでしょう。
「基本的にすべての症例について当院で医療を完結させることを念頭に置いています」(門田医師、以下同)
同院では、手術に耐えられない患者や手術を希望しない患者などには、ラジオ波焼灼術や薬物療法などの選択肢も提示し、それぞれの患者の状態に応じた弾力的な対応が取れるよう、すべての症例をカンファレンスで検討しています。この取り組みが、同院の肝がん治療の症例数を増やす結果につながっているのです。