世界的に認められた腹腔鏡の高度な技術
門田医師は21年6月、あるニュースで世界にその名をとどろかせました。米国で開催された国際腹腔鏡肝臓学会で高難度の手術映像を披露し、最優秀賞「ベストビデオアワード」に選ばれたのです。大学病院やがん専門病院ではなく、地方の市民病院の勤務医がこうした国際的な賞に輝くのは珍しく、日本の外科治療の技術の高さをあらためて世界に見せつける結果となりました。
門田医師が受賞した大きな理由は、肝臓の血管を取り囲む薄い膜「レネック被膜」を、がん治療で組織を摘出する際に一緒に切除するか、あるいは摘出しない部位と一緒に温存するか――という“考え方”を腹腔鏡手術に導入したことによるものです。レネック被膜を切除部位と一緒に摘出すればがんの取り残しを予防でき、逆に肝静脈に付けて残すと静脈の強度が高まることが分かっています。切除するか残すか、その判断は症例ごとに異なりますが、このことを考慮して腹腔鏡手術をおこなうことで手術成績を高める取り組みが評価されたのです。
「受賞を報道されてから、患者さんに声をかけられることが増えました。また『福山市民病院にこんな医者がいるんだ』と知ってもらうきっかけにもなったようで、広島市内や大阪のような遠方からの患者さんもみられるようになりました。海外からの講演依頼や他病院からの見学希望者も増えました。“人に教える”ということは、自分自身も勉強しなければならないので、いい循環になっていると思います」
地元の開業医に、取り組みを知ってもらうのが重要
受賞の反響を受け止めながらも、門田医師の視線はあくまで“市民”に注がれています。
「大切なのは、福山市民病院でおこなわれている肝切除術がどのような手術なのかを、市民の皆さんに広く知ってもらうこと。特に地域の開業医に当院の取り組みを周知する必要があり、そのためには地道に論文を書いて、学会に発表していくことが何より重要だと考えています」
一方で、最先端の治療技術を学び、臨床に導入する努力も怠りません。近年は肝がんの切除術にもロボット手術の導入が進んでいます。冒頭で触れた「レネック被膜」の取り扱いについても、腹腔鏡や手術支援ロボット「ダビンチ」に手術時の視野を拡大する機能があるから検討できるもので、開腹手術をして肉眼でこれを意識することは困難です。
「当院では旧式タイプのダビンチ1台で対応してきましたが、この8月に最新型の手術支援ロボット2台を導入したことで、ロボット手術の適応拡大が可能になりました。3D画像で体の中を立体画像としてとらえることができ、手ブレ補正機能により血管や肝門に近い部位の手術はやりやすくなると期待しています」