患者集中で、緊急性の高い患者が後回しに
また、児童精神科の専門病棟を持つ病院は少なく、まだ設置されていない都道府県もある。
「あまり急ぐ必要のない患者がこうした病院の外来に集中してしまうと、重症患者や緊急性が高い患者を受け入れることができなくなります。また、摂食障害や統合失調症といった子どもの精神疾患は、未治療期間が短いほど治りが良い。できるだけ早く、子どものメンタルにかかわる専門家にアクセスすべきなのに、できなくなっていることも懸念されます」
国立国際医療研究センター国府台病院の児童精神科は最大年間約800人の新患を受けていた時期もあったが、予約が1年待ちになり、キャンセルが増えるという問題も起きた。そのため、現在は1カ月分だけ予約を受け付ける方法に変更している。
「受け付け開始から30分で埋まりますが、予約が取れなくても毎月チャンスがあるようにしています」(宇佐美医師)
都内でクリニックを開業している児童精神科医は、予約が半年先になることで無断キャンセルが相次いだため、初診のみ予約金を振り込んでもらう方法をとっている。医師はこう話す。
「当日無断キャンセルをされると、キャンセル待ちをしている患者さんを入れることもできません。キャンセルが増えれば、診療を待つ期間はさらに長くなってしまう。ネットで『予約金をとるなんてがめつい』とたたかれることもありますが、いろいろ考えた末の苦肉の策です」
児童精神科医の増加が見込めない中で、医療機関側も試行錯誤を続けている。
なんでもかんでも発達障害は危険、きちんと診断を
発達障害の有病率は急増しているが、以前は見過ごされてきたということもあるのだろうか。宇佐美医師は言う。
「そうですね。小学校や中学校のころのことを思い出してみてください。今だったら発達障害と指摘されるような子はけっこういたかもしれませんが、昔はそうは言われなかったし、その個性に対しても寛容だったと思います。発達障害が知られるようになって、指摘される子が増えたのは事実でしょう」