ネットの同じ悩みを持つ親の掲示板で、「とにかく早く診断をつけてもらったほうがいい」という意見も読んだ。しかし「子どもの一生にかかわることだから」と考え、別の医療機関に予約を入れたという。
「早く診断をつけたほうが子どものためかもしれない、という思いもある」(女性)
子どもに適応がない治療を行う医療機関も
子どもの発達や心の問題を診療する医師は極めて少ない。専門家である日本児童青年精神医学会の専門医はわずか501人(23年4月1日)。診察を希望してもなかなか順番が回ってこないことが多く、半年、1年待ちという事態も起きている。
17年1月、総務省は、「半数以上の医療機関が3カ月以上、最長で約10カ月待ち」「約4割の医療機関で50 人以上、待機者が最大316人」といった調査結果をもとに、「全国で発達障害の受診待機が長すぎる」と指摘。厚生労働省に専門的医療機関の確保に取り組むよう勧告したが、現在も状況が好転しているとは言いがたい状況だ。
さらに冒頭の事例のように、待ち時間の短さ優先で選んだ診療が保護者を不安にさせてしまうこともある。国立国際医療研究センター国府台病院・児童精神科診療科長の宇佐美政英医師はこう話す。
「当院にも、『自費診療のクリニックで何十万円もかけて頭に磁気を当てる治療をしたけれど、効果がよくわからなかった』と話されたお母さんがいらっしゃいました。お母さんに『どうしてそのクリニックに行かれたのですか』と聞いたら、『先生のところの予約が取れないからでしょ!』と叱られまして、強烈なブーメランでした。実際、その磁気治療は成人のうつ病に適応のある治療法で、子どもや発達障害には適応がないことを日本精神神経学会が表明しています」
宇佐美医師はこう続ける。
「なかなか診てもらえなくて困っている親御さんは藁(わら)をもつかむ思いで行ってしまう気持ちはわかりますが、主治医の先生が子どもの発達や心の問題にかかわるトレーニングをきちんと積んでいるかどうかは、ホームページなどでしっかり確認したほうがいいでしょう。例えば、『日本児童青年精神医学会認定医』や『子どものこころ専門医』であることは、一つの目安になります。『脳波や心理検査だけで診断ができますよ』『磁気を当てて治療します』などとうたっているような医療機関には、あまり行かないほうがいいと思います」