高橋卓志(たかはし・たくし)/1948年、長野県生まれ。2018年、神宮寺住職を退職し、フリーランス宣言。『さよなら、仏教』(亜紀書房)など著書多数(撮影/亀井洋志)

「加害責任」を伝える

 その後、ガダルカナル、ペリリュー、レイテ、ボルネオ、沖縄へと慰霊行を続けた。

 高橋さんが18年まで住職を務めていた神宮寺(松本市)では毎年8月、戦争の悲惨さを記憶にとどめるためのイベント「いのちの伝承」を20年にわたって実施してきた。画家の丸木位里・俊夫妻の「原爆の図」全15部(第15部「ながさき」は長崎原爆資料館所蔵)のうち14部までを順次展覧し、参加者とともにいのちの本質について問い続けた。

 1回目の98年、丸木美術館(埼玉県東松山市)から最初にやってきたのは、第14部「からす」だった。原爆投下後、最後まで放置されたのは、長崎の軍需工場に強制連行されて働いていた韓国・朝鮮人の夥(おびただ)しい遺骸。それにからすが群がり、遺体の目の玉をついばむさまが描かれている。

「屍にまで差別した現実が突きつけられます。丸木夫妻は初期3部作『幽霊』『火』『水』を描いた後、無謀な戦争によってアジアで2千万人を超す戦争犠牲者を出した日本の加害責任にも目を向け、第13部『米兵捕虜の死』と『からす』、さらに『南京大虐殺の図』『沖縄戦の図』などを描いていく。人間は忘れる動物ですが、『被害』だけでなく、『加害責任の自覚』についても忘れることなく伝えていかなければなりません」

 病躯(びょうく)をおして、今年も6月は沖縄を訪れた。佐喜眞美術館(宜野湾市)の「沖縄戦の図」の前で、11弦ギター奏者の辻幹雄さんと読経の共演を実現。平和への思いはSNSでも発信する。

「治療専一になっちゃってネガティブなことばかりで終わるのはイヤだと思ったんです(笑)。自分にとって快い仕事をしていくことで、いま、がんと共存しながら生きている人々に何らかのアイデアを提供できればいい」

(ジャーナリスト・亀井洋志)

AERA 2023年8月14-21日合併号

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