アルプススタンドを彩る多彩な応援風景──。いつの時代も変わらぬ甲子園の風物詩が、声出し応援の解禁でようやく戻ってきた。迫力の吹奏楽、華やかなチアリーディング。今年はどんな応援が見られるか。「甲子園2023」(AERA増刊)の記事を紹介する。
緑豊かな丘の上に立つ日大三。校舎の屋上から、遮るもののない広い空に向け管楽器の音色が力強く響く。
「遠く向こうに見える山に向かって音を出すんです。球場での応援をイメージしやすいでしょう」
そう笑顔で語るのは吹奏楽部顧問の細谷尚央教諭だ。
同校の吹奏楽部は野球応援に力を入れており、その姿勢に惹かれ、山梨県から通う生徒もいる。野球応援の歴史は古く、甲子園球場での吹奏楽による応援は同校が元祖とも言われる。1952年の選手権大会でのことだ。
「野球部が初戦を突破したとき、吹奏楽部は長野で合宿をしていたんですが、鎌田(彦一・理事長)先生の号令で球場に駆けつけたそうです」
昨夏、同校は4年ぶりに甲子園に出場。アルプスでの演奏を経験した主将の内田麻友さん(2年)は言う。
「甲子園球場では『打ってくれ』という思いがより強くなって、疲れも感じなかった。初戦で負けてしまったけど、帰りたくなかった」
聖地での応援は「何にも代えがたい特別な経験」と細谷教諭は言う。
「甲子園では地響きや歓声が入り交じって独特な音になる。想像を超えるこの体験を部員皆に味わわせてあげたい。だから吹奏楽部は野球部と一緒に夢を追っているんです」
(AERA編集部・秦正理)
※AERA増刊「甲子園2023」から