鈴木:それが子どもですよ。子どもって映画を観て多くを言わない。「おもしろかった!」って。そう言ってくれた大人に僕まだ会ってない。「考えさせられました」って言われる。「考えさせるために作ってるんじゃない!」と言いたくなる(笑)。
できなかったことやった
太田:言い訳させていただくと、僕は3回観て、観れば観るほどどんどん楽しくなっています。それに「考えさせられる」一方で、楽しさや奔放さにも満ちあふれていると思いました。
鈴木:宮さんの大きな特徴は、まず絵を描くんです。絵からストーリーを作っていく。高畑勲監督だってシナリオを書いたけど、ここに宮崎映画のすべての秘密がある。
太田:描きたいシーンが自分のなかからワーッと浮き上がってくると。
鈴木:そうです。そして今回、彼はこれまでにできなかったことをいっぱいやっている。いままで準備に1年、実作業2年のほぼ3年で映画を作ってきた。でも、今回僕は締め切りを作らなかった。だから準備に2年半、実作業に5年くらい。かけた時間とお金が全然違う。
太田:リミッターを外してどんな宮崎さんが出てくるか、と。
鈴木:そう。いままでと同じことをやるんだったら、引退を撤回してまでやる意味がない。制約のないところで何ができるか見てみたかった。だから、僕は観終わってやっぱりうれしかったんです。これが宮崎駿の「格」だと思った。
太田:恥ずかしながら、眞人がいきなり自分の頭に石をぶつけて血を出すシーンで、「なんで?」と思っちゃったんですよね。
鈴木:でも、わかるものってつまらなくないですか?
太田:確かに最近の映画はわかりやすくなりすぎているとは思います。映画を観る本当の面白さは、「わーっ、なんだこれ?」なのかなとも思う。
王道だからこそ伝わる
鈴木:それでいて「世界の秘密がわかった!」みたいな瞬間がある。これはそういう映画だと思っています。
太田:鈴木さんは、「君たちは~」の絵コンテを見て、「大丈夫かな?」と思わなかったですか。
鈴木:思わなかった。先日、作家の池澤夏樹さんが「これは英雄物語だ」と言ってくれたんですが、まさにそう。主人公が試練を経て成長する。宮さんはそれが大好きなんです。だから、この映画は、物語としては王道中の王道。だから、子どもに伝わる。