太田:日常描写もすごく細かかった。眞人が弓矢を作るシーンで、台所に行ってご飯をくちゃくちゃとやってのりにする、あの一連の動きを一切手抜きなしにやっている。
鈴木:宮さんの頭には、人との会話や行った場所などの記憶が全部しまってあって、必要なときにその引き出しを開けてくるんです。写真を見て描いたりするスタッフがいると、本気で怒るんです。その代わりに目で覚えろ、と。宮さんは自分の目で見たものを部品に分けて、それを組み立てているんです。
太田:鈴木さんは、「物づくりにおいて自己主張は邪魔だ」とおっしゃっています。例えばレオナルド・ダ・ヴィンチも、注文を受けて相手を喜ばせようと絵を描いてきた。言うなれば「ラーメン屋」みたいなもので、お客さんに自分の好みを押し付けず、お客さんが喜ぶことが第一だと。
「よし、もう一回」
鈴木:宮さんもそうです。彼は人を喜ばせたい人です。実際、料理上手で本当に美味しいラーメン作るんだけど(笑)、彼はサービス精神に満ちているんです。逆に自分の好きなものは映画にしない、マンガで表現すると言っています。だから、この映画も第一にみんなを「楽しませる」ものだと思っています。
太田:僕はジブリ映画の真のすごさを、「時代性」だと思っています。本作はファンタジー世界の描写に戦争の影を引きずっていますよね。
鈴木:前作の「風立ちぬ」も戦争を描いたようでいて、実は巧妙に直接には描いてない。あのときはまだ整理がついていなかったんだと思います。いまあらためて、戦争とはこうだった、ということをもう一度ちゃんと表現したかったんじゃないのかな。
太田:同タイトルの小説『君たちはどう生きるか』につながる「悪意」の描写も感じました。
鈴木:僕も、もしも宣伝をやるとしたら、「悪意」という言葉を使おうと思っていた。悪意って人の悪意だけじゃなく、時代の「悪意」もある。「君たちはどう生きるか」は、いま、それを考えたうえでの言葉だと思います。
太田:宮崎監督の次回作はありますか?
鈴木:こんなこと勝手に言うとまた怒られるかもしれないけど、ヒットしたら、あるんじゃないですか(笑)。みなさんがどう本作を受け止めるか。みなさんに選んでいただけるのだったら、「よし、もう一回」となるかもしれません。
(構成/フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2023年8月14-21日合併号