6月に史上最年少で名人位を獲得した将棋の藤井聡太七冠は、先日も棋聖戦を4連覇し、前人未到の八冠にまた一歩近づきました。AERAに連載した棋士たちへのインタビューをまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちはいま』(松本博文著、朝日新聞出版)では、渡辺明九段をはじめ多くの棋士が、藤井七冠との対局の印象を語っていて、小学生だった頃やルーキー時代からタイトルを獲得していった現在まで、藤井七冠の軌跡が感じられます。2022年10月3日号に掲載された斎藤慎太郎八段のインタビューは、詰将棋を愛する斎藤八段が「私の3倍ぐらいのスピードで解いてる」と舌を巻く藤井七冠の「すごい才能」について語ります。(本文中の年齢・肩書はAERA掲載当時のままです)
* * *
「終始苦しい番勝負になってしまって。なかなか打開策が見つからなかった、というところでした」
斎藤慎太郎八段が2年連続で渡辺明名人に挑んだ名人戦七番勝負。百戦錬磨の相手に苦戦し、2年連続1勝4敗で敗退した。
「名人との戦い方の差もありましたし、技術の差も感じました。負けただけで終わってしまってはいけないので、この経験を生かすしかありません。名人の戦い方に、現代将棋のヒントはいっぱいありました。名人は『認識』を多く持っている。部分的に『この形にはこの形がセット』という引き出しが多い。研究も深いですが、そこから少しはずれたと思われる局面でも決断をしっかりされているのは、その認識力だと思うので」
現代はベースとなる実力に加え、ハイスペックなマシンでの事前研究も勝負のうちととらえられるようになった。
「私は知り合いにコンピューターに詳しい方がいたので、その方に組み立ててもらいました。ただ(序盤感覚に優れる)ディープラーニング系のソフトは、私は実はまだ導入していなくて。公式戦でそこの差が出たと思ってから使おうと思っています。私が最近指してる将棋では、終盤で間違えることが多い。それは自分自身の棋力によるところなので」