詰将棋を愛する斎藤は、解答選手権で優勝した経験もある。しかしその斎藤らを抑えて小学6年で初優勝を果たし、以後5連覇した神童がいる。藤井聡太現竜王だ。

「小学2、3年の頃からすごい才能がある雰囲気は感じたんですけど、さすがにここまでとは予想できませんでした(笑)。並の速さじゃない。私の3倍ぐらいのスピードで解いてるとわかりました」

 斎藤より9歳下の藤井は棋士になってからすさまじい勢いで勝ち続けている。斎藤は公式戦でここまで渡辺、豊島将之九段、永瀬拓矢王座、そして藤井に負け越している。

「そうした方たちに勝たないと先がないと思っています。それができなければもう、タイトルにからむことすら大変な時代になったので」

「そうした状況を加速させているのは藤井さんの存在です。これまでも『もっと頑張らないと』とは思ってました。そこに藤井さんが現れたことでさらに壁が厚くなって、『もう余裕はない』という危機感が出てきた。私は元来、かなりのんびりしている性格で、なんでも慎重なんです。焦らせてもらえるぐらいのほうがちょうどいいかもしれない」

 9月10日。トップクラスが参加する棋戦、将棋日本シリーズにおいて、斎藤は逆転で渡辺に勝利。ベスト4進出を決めた。

「斎藤さん、すごい根性ですね。すっきりした将棋を指すイメージがあったんですけど」

 解説の森内俊之九段はなりふりかまわないように見える斎藤の指し手をそう評した。

(文/松本博文)

※松本博文著『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)から一部抜粋/AERA2022年10月3日号初出

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