ただ、2年も誰かのためにコンピューターの前に座っていると、「こんなこと、自分でやれよ」と思うようになる。事業に直に携わりたいと、異動を希望したがかなわずにいたら、3年目の夏から3カ月、中国語の研修で台湾へ留学させてくれた。帰国後、北京の外国人住宅の建設プロジェクトに参加し、久しぶりに都市工学の感覚が蘇る。翌年、プロジェクトで一緒にいた化学プラント輸出第二部の人から「これが済んだら、一緒に仕事しないか」と誘われ、藤木さんがいた世界へ入っていく。

■「狩人」の交流へ 新しい本社に13の「キャンプ」

 2015年4月に社長就任。社員に、どこでもどんな仕事でもこなせる「雑食性」と他国の文化や歴史に対する「好奇心」の二つを求めた。「結果に、とことん、こだわってくれ。そのために人事を尽くせ」とも言った。どちらも、藤木教室で湧き出した『源流』からの流れ、伝承の言葉だ。

 2020年5月、東京・大手町の皇居沿いに、改築した本社ビルができた。地上31階建て、その16階から28階まで13フロアに、コミュニケーションの場を設けた。いろいろな人が自由に交われる場として「キャンプ」と呼ぶ四つの場を用意する。

 オープンな雰囲気で自由闊達に意見交換を行う「Social」、プロジェクト単位での小中規模の議論をする「Co−work」、思考を深めて静かに戦略やアイデアを練る「Focus」、デジタルトランスフォーメーションを推進する専門人材が集う「d.space」と名付けた。様々な情報を交わらせるのは、「猟場」を探す際に1人の情報や知識よりも仲間と連帯したほうが「獲物」は大きい、との体験からだ。

 いまの時代、酒とカラオケの「飲ミュニケーション」は、出番が減った。若い世代は、先輩と飲みにいって仕事の話をされるのを嫌がる傾向だ。でも、何らかの方法で、先輩から後輩へ伝承すべきことは多い。新しいコミュニケーションの在り方が必要だと確信するから、皇居を望む一等地に13カ所も設けた。「時代に合ったコミュニケーションの場」が、『源流』から流れ着いた答えだからだ。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年7月17日号