同院はもともと財務体質があまり良くなく、資産もほとんどなく、新しい医療機器の購入や施設のリニューアルなどで借金を繰り返していた。
「着任当初は、経営のセミナーや講習会などにも参加しましたが、ほとんど役にも立ちませんでした。われわれ医師は『患者さんのため』という目線で考えますが、それらのセミナーなどはいかに収益を良くするか、患者さんを集めてくるかというビジネスの視点しかなく、診療の質や職員の処遇といった視点がなかったのです。逆に、私は経営の素人でしたが、患者目線のプロだという自負はありました。患者にいい医療を提供するためにどうしたらいいのか、そこから考えることにしたのです」
厳しい状況から、磯部医師は経営改革に着手し、19年度には黒字に回復、20年度も黒字幅を大きくし、21年度には過去最高の収益(収入約180億円、収益約18億円)というV字回復を果たした。いったい何をしたのか。
■患者が満足する最高の循環器医療を提供する病院でありたい
「もっとも重要視したのは、職員の意識改革です。まず、われわれはどうありたいかを確認し、『日本のトップの病院でありたい。患者が満足する最高の循環器医療を提供する病院でありたい』と位置づけました。それを実現し、患者に質の高い医療を提供するためにはどうしたらいいか。それには職場環境を良くすることが必要であり、そのためには経営が安定して健全であることが大切であると、職員に繰り返し話すことで意識改革を促しました」
それまでは、「真面目に医療を実践していれば経営のことは気にしなくていい」「患者に最高の医療を提供している職場なのだから、給与は問題ではない」といった考えが浸透していた。実際に職員の処遇、特に若手医師・看護師・技術職員の給与は低く抑えられていました。職員のコスト意識も低かった。しかし、磯部医師は、古い考えを改め、支出の軽減と収入の増加に合わせて、処遇改善に着手。「働く人が働きやすい職場、処遇にしないと、いい診療はできない」と理解を求めた。