2007年の日本シリーズ第5戦で、中日・落合博満監督が8回までパーフェクトの山井大介を9回から岩瀬仁紀に代えたシーンを彷彿とさせるが、わずか1点差だった日本シリーズとは異なり、7点差での交代劇は、もったいないとも言える。
だが、投手出身の彦坂監督は、交代の理由を「2死になったら交代するからと力也には言っていました。非情と思われるかもしれませんが、先を考えて、ウチのパターンの継投をしておきたかった。迷いはなかった」と説明した。
実は、杉本は前年11月に左肘の遊離軟骨除去手術を受けており、本格的に投球できるようになったのは、県大会直前の6月から。真夏の連戦を勝ち抜いていくためには、加納との継投パターンが必要不可欠だった。
杉本本人も「(記録は)知っていましたけど、それほど意識はしていませんでした。ここまで投げられたんですから。投げたい気持ちはあったが、チームの勝利が優先」と割り切って、マウンドを加納に譲った。
加納は最後の打者を二ゴロに打ち取り、この結果、2投手の継投によるノーヒットノーランが達成された。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。