※写真はイメージです(Getty Images)
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 男女の出会いの場としてすっかり市民権を得たマッチング・アプリ。しかし、出会いの「入り口」となるプロフィールにフェイクを潜ませるユーザーは少なくない。ジャーナリスト・速水由紀子氏が上梓した『マッチング・アプリ症候群 婚活沼に棲む人々』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、同氏が考える「気をつけるべきフェイクプロフィール」について紹介する。

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■限りなく嘘に近いフェイクプロフィールに御用心

 入会してからのいろんな人との突風のhttps://www.amazon.co.jp/dp/4022952229ような出会いと別れに疲労感を覚えていた頃、「菩薩」というニックネームと紹介文に惹かれて「いいね!」をした。プロフィールにはこんな疲れた心をくすぐる言葉が書き連ねられていた。

「癒し上手です。見た目も中身も菩薩です。迷いや悩みを全部私の心に置いていってください」「あなたの話をカウンセラーのように聞いて癒してあげましょう」「穏やかで決して怒らず、みんなにご利益があるとお賽銭を投げられます」「あなたをすっぽり包み込む包容力、ヒーリング力には自信があります」

 菩薩さんのややぽっちゃりな体型も丸顔で温厚そうなルックスも、癒されたい気分がピークだった私には理想的に思えた。「俺が世界の中心」な人々に疲れていたので、菩薩さんの懐に飛び込んで話を聞いてみたくなった。こんな人ならきっと破局を何もかも別れた元妻のせいにしたり、家事も子育ても向いてないから丸投げしたいなんて言わない……はずだ。

 ところがいざマッチングしてLINEでビデオトークしてみると。

「別れた妻の悪口は言いたくはないが」と言いながら出るわ出るわ……。

 菩薩さんが妻と別れた理由は10年前、年に何回も長期出張が続き、会話がほとんどなくなって関係が冷えてしまったことだという。

「妻は結婚当初、専業主婦になりたいと仕事を辞めたのに、子供が中学になると今度は家事だけの人生は嫌だと言い出して」

 そのうち家庭内別居状態となり、早期退職と同時に離婚届を突きつけられたというシリアスな熟年離婚だ。しかも離婚後半年も経たずに妻は年下と再婚。今では娘とも年一度しか会わせてもらえない。

 菩薩さんは「家裁の調停で財産の半分は元妻の手に渡り、持ち家も持っていかれたので、狭いマンションに引っ越さなければならなかった。新しい会社に再就職するまで、本当に大変だった」と恨めしそう。しかも元妻が離婚前から不倫をしていて、早期退職金の分与を計画していたと恨みつらみが止まらない。

 結局、2時間のトークの3分の2がその話でぐったり疲れてしまった。

 癒されるどころじゃない。これでは菩薩サマどころか恨みがたまった怨霊だ。

 なのになぜ、菩薩なんていう誤解を与えるニックネームにしたのか?

「再就職した会社で人材育成トレーニングを担当していて、そこで相手の話をすべて受け止めるのがどんなに大切かという訓練をしているんですよ。このメソッドを教えている時は、本当に菩薩様になれるんですよね」

 あまりのギャップにのけぞりそうになった。

 それはあくまで職能であって、本当の資質ではない。つまり中身は離婚前の彼と少しも変わっていないのだ。企業のトレーナーとしてどんなに人徳があっても、家ではどろどろの怨念から抜けられない怨霊なんて絶対、ごめん被りたい。

 マッチング・アプリのプロフィールは、好印象を与えるために弱点を都合よく粉飾されがちだ。例えばこんなプロフィールは、裏のマイナスポイントを隠しているかもしれないので要注意。

「周りに裏表がないと言われる」 KYで気を使えない

「決断力がある」 俺サマで協調性がない。相手の意見が聞けない

「経営者」 月商10万に充たないネット通販ショップなどの経営

「年より10歳は若いと言われる」 リップサービスを真に受けている

「すぐに仲良くなる」 付き合っていなくてもすぐやろうと誘う

「家事はできれば一緒にしたい」 と言ってもあくまで口だけ

「デート代は自分が多めに払う」 最初だけは

「実家暮らし」 生まれてから実家を出たことがない。母親が上げ膳据え膳

 ざっとこんな感じだ。嘘とまでは言えないが、現実とはかなりの落差がある。もちろん女性もメイクや写真加工など自己申告と内実のギャップはいろいろあるだろうが、特に人間的な本質に関わることをすぐバレる嘘で美化するのは逆効果でしかない。

 だからアプリでマッチングをしたら、まずプロフィールのどこが嘘でどこが本当か見定めなくてはならない。アプリ内メッセージのやりとりではほぼわからないので、一通り自己紹介をしたらLINEに移り、電話やビデオトークしてみることを強くお勧めする。百回メッセージ交換してもわからない生理的、感覚的な相性、そして相手の嘘やごまかしが一瞬にしてわかるからだ。特に直感力の優れた女性なら、相手のキレやすさ、俺サマな傲慢さ、自己中などネガティヴな部分は察しがつく。声や映像の情報量は、テキストの比ではない。

 会ったことのない相手とのメッセージ交換、LINEトークは7割が想像とまったく違う現実を隠していると思ったほうがいい。みんな自分を少しでもよく見せることに必死なのだ。あなたが今、アプリのプロフィールに書いている「ちょっとした嘘」のように。

●速水由紀子(はやみ・ゆきこ)
大学卒業後、新聞社記者を経てフリー・ジャーナリストとなる。「AERA」他紙誌での取材・執筆活動等で活躍。女性や若者の意識、家族、セクシャリティ、少年少女犯罪などをテーマとする。映像世界にも造詣が深い。著書に『あなたはもう幻想の女しか抱けない』(筑摩書房)『家族卒業』(朝日文庫)『働く私に究極の花道はあるか?』(小学館)『恋愛できない男たち』(大和書房)『ワン婚─犬を飼うように、男と暮らしたい』(メタローグ)『「つながり」という危ない快楽─格差のドアが閉じていく』(筑摩書房)、共著に『サイファ覚醒せよ!─世界の新解読バイブル』(筑摩書房)『不純異性交遊マニュアル』(筑摩書房)などがある。