※写真はイメージ(gettyimages)
※写真はイメージ(gettyimages)
この記事の写真をすべて見る

 質問に応じて文章を自動作成する「ChatGPT(チャットGPT)」。その利便性から、学生の思考力の低下につながる懸念もあるが、東京大学教授の佐倉統さんは「間違っている」と断言する。むしろ生成AIを使いこなすには、深く考える必要があるという。AERA 2023年7月10日号の記事を紹介する。

【この記事の写真をもっと見る】

*  *  *

 革命的な技術の登場に、礼賛する意見や恐れる気持ちなど、さまざまな声が飛び交う。しかし、「少し落ち着いて向き合うことが大事では」と話すのは、理化学研究所・革新知能統合研究センターチームリーダーで東京大学教授の佐倉統さんだ。とくに「人間の手に負えない存在になるのでは」という懸念に対しては、「そこまでの存在ではないだろう」と話す。

「思いもよらないことまでチャットGPTができるので、『これもできるのか、すごい』という話になっていますが、遅かれ早かれ『あ、意外とこれはできないね』『さすがにここまではできないか』が見えてくる。そんな状況になれば、やがて熱は冷めるのではないかと見ています」

 チャットGPTも、テキストの説明文から画像を作る生成AI「ミッドジャーニー」にしても、学習の対象としている情報はインターネット上の情報に限られる。そこには膨大な情報があるとはいえ、私たちはネット上の情報だけあれば人間として暮らすのに必要かつ十分かと言えば、まったくそんなことはない。たとえば「物そのもの」の情報──触った感触や食べ物の味や匂いなどの情報を、チャットGPTは取り入れることはできない。

「また、情報がネット上に限られている以上、学習はいつか頭打ちになる。『人を凌駕(りょうが)する』には、そこが一つの限界になるのではと思います」

佐倉統(さくら・おさむ)/1960年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門は進化生物学、科学技術と社会の関係についての研究考察
佐倉統(さくら・おさむ)/1960年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門は進化生物学、科学技術と社会の関係についての研究考察

 佐倉さんがゼミを担当する東京大学大学院情報学環の院生たちは、文献を探したり、プログラムを書いたり、チャットGPTを日常的に「普通に」使っている。佐倉さん自身も、研究のアイデアを相談する相手として日常的に使い、海外の人とやり取りする英文メールの作成では「頼りきりです」と笑う。

「もちろん、チャットGPTの情報がこちらにとって有益か、事実レベルが正しいかどうかは保証の限りではなく、そこを見抜く力は必要になってきます」

 チャットGPTに頼ることで学生が「自分の頭で考えなくなるのでは」という懸念に対しては、「間違っている」と話す。

「生成AIが賢くなればなるほど、自分で深く考えないと、向こうが返してくる回答が自分の欲しているものに合っているかどうかが見極められません。学び方は変わっても、自ら考えることの重要性は変わらない。また、チャットGPTで自分が欲しい答えを得たいと思えば、適切な質問を投げかけないと返ってこない。『問う能力』もさらに必要になってきますし、自分がなぜ、何に対する回答を欲しているのかを明確にする力も、ますます重要になってくると考えています」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年7月10日号より抜粋

著者プロフィールを見る
小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

小長光哲郎の記事一覧はこちら