実際に秋以降は難題が控えている。大手電力7社の家庭用電気料金の値上げが決定し、早ければ6月の使用分から家計に影響することになるが、現在行われている政府による電気・ガス価格激変緩和措置は10月検針分で終わる予定で、多大な負担が予想される。防衛費や少子化対策の財源問題についての議論も本格化し、いずれにしろ国民の負担は大きくなる。

 その時に内閣支持率はどうなっているか。昨年の参院選以降、岸田内閣の支持率は低迷していたが、今年の春になってようやく上昇に転じ、日経新聞とテレビ東京による4月の世論調査では52%と、8カ月ぶりに5割台となった。NHKの世論調査でも3月に支持率が不支持率を上回り、支持率の上昇が続いている。

 株価についても日経平均は5月に入って年初来高値を更新中で、東証株価指数(TOPIX)は5月16日に2127.18と、バブル崩壊以来約33年ぶりの高水準を記録した。だがアメリカでは連邦政府のデフォルトリスクが問題となっており、一時はバイデン大統領のG7広島サミットへの参加も危ぶまれたほどだ。

 G7広島サミットの主要課題は、経済とロシアのウクライナ侵攻の問題で、とりわけ後者ではG7の首脳が一致結束して見せることが重要になる。バイデン大統領の出席はサミットの成功を左右するばかりでなく、故郷に錦を飾りたい岸田首相にとっても欠かせない。そのために党内で反対が多かったLGBT法案を了承させたのではなかったか。

 岸田首相の在職日数は4月10日に554日となり、宏池会の先輩である故・大平正芳元首相と並んだ。そして7月9日には故・宮沢喜一元首相と並ぶ644日となる。いずれも東京サミットを主催したが、大平元首相はその翌年に死去し、宮沢元首相は退陣を余儀なくされた。しかし「鈍感力」を誇る岸田首相は、そのジンクスをはね返す勢いだ。

自民党幹事長時代の大平正芳氏=1978年10月9日
自民党幹事長時代の大平正芳氏=1978年10月9日
記者会見する宮沢喜一首相(当時)=1992年4月
記者会見する宮沢喜一首相(当時)=1992年4月

 翌17日に開かれた宏池会のパーティーで、岸田首相は第2次オイルショックや冷戦崩壊後にサミットの議長を務めた大平元首相と宮沢元首相の名前を挙げ、「歴史的転換期に向かう中でサミットの議長を務めた政治家」として自分自身を並べた。さらに「ハト派」や「タカ派」といった過去の政治家の範疇を超えて、その眼は“次”を見据えようとしているのだろう。穏やかな表情の下に、したたかな顔が見え隠れする。予想もつかない決断が下される可能性は小さくない。

(政治ジャーナリスト・安積明子)

■あづみ・あきこ 兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)。趣味は宝塚観劇。

著者プロフィールを見る
安積明子

安積明子

■あづみ・あきこ/兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)。趣味は宝塚観劇。

安積明子の記事一覧はこちら