「振り込め詐欺で絶対に必要なものが、番号が『050』からはじまるIP電話です。居場所、発信元が追及されにくく、ある方法を使えば、警察署、市役所、裁判所など、詐欺グループがなりすます役所などの発信者番号を相手に通知できるのです」

 とはいえ、最近は事情も変わってきたという。

「昔は、振り込め詐欺で一つ当たれば数百万円、数千万円と稼げましたが、今は広く注意喚起されて、詐欺への警戒感も以前より強くなっているのでなかなか“ヒット”はしません」

 元検事の落合洋司弁護士は、スマートフォン4台、ダブレット1台を日常的に駆使し、モバイルに詳しいことでも知られており、本人もIP電話を所有しているという。

「050のIP電話回線は、主にデータ通信で使われていたものが音声通話にも転用されたのです。データ通信のなごりで、本人確認が甘いのは事実です。アプリによっては、他国の電話番号もすぐとれてしまいます。通信の自由は大切だけど、悪用されないようにするためのルール作りが必要です」(落合弁護士)

 Aさんが逮捕されたのは、警察の強制捜査があって10日ほど経ってからだった。道具屋に卸した携帯電話やIP電話の番号が多数に及んだため、捜査には時間がかかったという。

 また、容疑は認めていたが、道具屋を介して振り込め詐欺グループともつながっていると疑われて保釈も許可されず、数カ月を警察の留置所、拘置所で過ごした。ニュースでも報じられ、会社はクビ同然。そして、有罪判決が言い渡された。

「拘置所から出てすぐに、道具屋から指示されて設立した会社を解散させました。道具屋にも連絡はつかなくなっていました。警察に捕まっている間、家賃も滞納で住んでいたマンションにも入れず。過去に警察にお世話になるようなことがなかったので、執行猶予判決だったことが幸いでした。楽して簡単に稼げる、なんて甘い言葉に乗ったのがバカでした。そんなうまい話はなく、後悔しています」(Aさん)

 闇バイトは割に合わない、ということを広く知らしめることが必要だ。

(AERA dot.編集部 今西憲之)
 

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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