Aさんは道具屋を介するので「顧客」の素性はわからないが、振り込め詐欺グループだと感じていたという。
「道具屋にはマニュアルがあるようで、まず会社設立のフォーマットを送信してきたので、その通りに書いて登記をしました。次に、IP電話を大量に取得するには代理店になるのが手っ取り早いとのことで、総務省に届け出。これも道具屋がすぐに教えてくれました」
これで“準備”が完了し、何もしない期間が少し続いたという。
「しばらくすると、IP電話の番号が数千単位で入手でき、すぐに買い手がついて10万円を超えるもうけがありました。携帯電話のSIMカードも何百も手に入れて、道具屋がすぐに買ってくれました。やりとりはLINEなどのメッセージアプリでやるだけで口座にカネが入ってくる。会社勤めしながらでしたから、“楽して簡単”とそのときは思いました」
その後、Aさんは車や銀行口座の名義貸しもやるようになる。おおよそ100万円近く稼いだという。
しかし、長くは続かなかった。
「ある日の朝、突然でした。『おい開けろ、早く開けろ』とマンションの部屋のドアをドンドンドンとたたかれて、オートロックなのに、と思いながら起きていくと、『警察だ、こらぁ』とすごい勢いでした。刑事が『電話番号、使われてんだ。詐欺の一味か』とまくし立てるように言ってきて。道具屋から振り込め詐欺グループにIP電話が売られて、その番号が犯行に使われ、多額の被害が出たという話でした」
とAさんは逮捕時のことを振り返る。
「名義貸しなので、よからぬことに使われているという思いは少しはありました。しかし、振り込め詐欺の実行役でもないので、グレーだけどセーフだろうと。でも全然セーフじゃないと思い知らされました」
Aさんは最終的に、道具屋経由で3千を超える携帯電話やIP電話を提供した。そのなかの番号が詐欺に使われ、大きな被害を出す犯行につながったという。
道具屋の男性が裏側を説明する。