写真:国際基督教大学提供
写真:国際基督教大学提供
国際基督教大学では2020年に本館のトイレの改修工事を行い、1~3階の中央部がオールジェンダートイレになった(写真:国際基督教大学提供)
国際基督教大学では2020年に本館のトイレの改修工事を行い、1~3階の中央部がオールジェンダートイレになった(写真:国際基督教大学提供)

「意義は理解しても、『黒船』のごとく突然現れたように思え、受け入れられない人も多いのではないでしょうか」

 これまで、日本の公共トイレは快適さを追求して設計されてきた。男女別区画こそが多くの人にとっての快適さにつながったケースも多いという。

「以前、新宿の飲み屋街のトイレ改修を手掛けました。スペースが狭く、男女の区画もなく、個室に入るには男性用小便器の前を通る構造で女性には利用しにくいものでした。そこで女性専用個室を手前につくり、男女が鉢合わせしないように改修したところ、女性からのトイレへの評価が格段に変わりました」

 そして、こう指摘する。

「私たちトイレのつくり手に性的少数者への視点が十分でなかったのは事実です。一方、快適さの一要素として、多くの男性・女性が専用の空間を切望していることも否定できません」

■今の日本の最適解

 日本はいわば「トイレ先進国」だ。機能性を重視する欧米と比較して機能にとどまらない快適さを求める人が多く、擬音装置(音姫など)が設置されるなど、排泄への意識が繊細だとも言われる。そうしたトイレ文化に男女が同じ空間を共用するオールジェンダートイレがなじむのか、先は見通せないという。

「少なくとも今は男女別トイレを維持しつつ、誰でも入れるトイレを増やすのが最適解だと思います。公共トイレはおおむね15年ごとに改修時期を迎えます。その間に問題点や解決策を明確化し、ゆっくり変化させる方が多くの人が合意しやすいでしょう。日本のトイレ文化になじみ、性的少数者の使いやすさも満たす形がつくり出せるはずです」

 トイレを男女別に分けるようになったのは、近代以降だ。国際日本文化研究センターの井上章一所長(風俗史)は歴史をひもときつつこう解説する。

「近代化による男女同権は女性が自由にふるまえるように、空間的な区別はなくす方向に進みました。プールも海水浴場も男女の隔てが取り払われた。ところが、排泄と入浴だけは逆でした。『立ち小便』という言葉は本来、女性が外で立ったまま用を足すことを表したもので、近代まで女性も堂々と外で用を足していました。初期の公衆トイレも男女共用です。歴史的には男女の排泄の場を区別すべきとは考えられていませんでした」

 現在でも、(本来は禁止だが)女性用トイレが行列しているときなどに男性用に入る女性は存在する。オールジェンダートイレが受け入れられるかどうかは、「人による面が大きい」と井上さんは言う。

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