
CFの実行委員長を務めたのは、埼玉県に住む今西穂高(ほだか)さん(66)。
13年4月、33年勤めた会社をリストラされた。失意の中、東北を一人で旅している時に放送中の「あまちゃん」を見てハマり、元気をもらった。自分も何かに向かって行動しようという気持ちになれ、前に進む勇気を与えてくれたという。「アキが海に飛び込むシーンが何度かあり、どれも印象的でした。飛び込むとは、恐れながらも勇気を出して新しい世界に入ることを意味しています。自分を変えようとする『覚悟』を感じました」
その後、今西さんは再就職も決まり、三陸地方にも通い三鉄もよく利用するようになると、あまちゃんでも重要な役割を果たす三鉄に親しみを感じた。そして、この三鉄に「あま絵」で飾った列車を走らせたら、楽しく、沿線の人も喜んでくれるだろうと考えるようになり、CFで資金を募ったという。「三陸元気!GoGo号」は、今西さんの命名だ。
「多くの皆さんに三陸を訪れ、きれいな景色や美味しいお弁当を楽しみながら、『三陸元気!GoGo号』に乗っていただきたいと思います」(今西さん)
■再び日本を元気に
4月上旬、三鉄の久慈駅で行われた三陸元気!GoGo号の出発式には、のんさんも駆けつけた。
「たくさんの愛情を感じる列車。沿岸を走るのがすごく楽しみ」
とあいさつ。テープカットをした後、北の海女の姿になり、大漁旗を振って列車を見送った。
ラッピング列車は、久慈(岩手県久慈市)−盛(さかり)(同大船渡市)間の163キロを、10月1日までの毎週土日に運行する。それ以降は、通常ダイヤに組み込んで来年4月上旬まで運行する予定だという。
三陸鉄道も歓迎する。
同鉄道は1984年に開業。かつては、交通手段がなく隣の集落に行くのさえ船で岬を回らなければいけなかった三陸地方を一つにつないだのが三鉄だった。だが、開業時には年間268万人だった乗客数は、沿線自治体の少子化や人口減少、コロナ禍などで21年度は約61万人と4分の1にまで減少。22年度は、燃料費高騰も加わり、2年連続の赤字になる見通しなど厳しい状況が続く。
それだけに、三陸元気!GoGo号への期待も大きい。三鉄によれば、今年のGWは多くの観光客が列車を利用し、駅のホームではカメラを構えたファンが、列車が来るのを待った。4月29日から5月5日までの収入は、対前年を上回り121%になったという。
「今後は、新型コロナウイルスが5類に移行したことから『あまちゃん』の再放送と『三陸元気!GoGo号』の運行によって、たくさんの方に来ていただきたいと期待しております」(三陸鉄道)
あまちゃんが再び、三陸を、そして日本を元気にする。
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年6月5日号