一方、デサンティス氏は来日中の4月24日、岸田文雄首相と会談し、日本の防衛力強化の取り組みについて「高く評価している」などと述べた。デサンティス氏は実は、まだ正式に大統領選に出馬表明をしていない。しかし、一州知事であるにもかかわらず、国家首脳を訪問するのは、外交能力を顕示するためのパフォーマンスだ。
ロイター通信によると、「近隣地域が厳しいことを私たちは理解している。強い日本は米国にとって良いことで、強い米国は日本にとって良い」と、台湾情勢などを想定したとみられる発言をもしている。また、日本は「素晴らしい同盟国」であり続けていると称賛したという。これも、米国では党派を超えて一致する日本に対する歴史的認識だ。
■警察は過激な行動を警戒、支持者が社会不安をあおる
ところが、米記者にトランプ氏に支持率で水をあけられていることを尋ねられると、からかうようにこう答えた。
「私は、大統領候補じゃないしね」(CNNから)
トランプ氏起訴に始まる混乱は、米社会に不安をもたらしている。「起訴へ」という米メディアの報道が始まったのと同時に、ニューヨーク市警は検察局や裁判所があるエリアを通行止めにし、バリケードを張り巡らせた。トランプ支持者らが、反対デモにとどまらない過激な行動に出ることを警戒したためだ。ワシントンや南部ジョージア州など、トランプ氏を訴追する捜査を行っているエリアは、警戒が強化された。
しかし、犯罪の専門家らは、トランプ氏や彼の身辺を捜査している関連地を警備するだけでは不十分だと指摘している。集団が起こす行動は予測ができるが、単独犯の過激な活動は司法当局のアンテナの外にあるケースが多いためだ。
法を犯し起訴された事実を、トランプ氏は「特殊能力」を駆使して、自らを被害者ヒーローにする。さらに、ヒーローが復活し大統領となることで、国家を救うというシナリオを支持者に信じこませる。
米国史上、米憲政史上あり得なかったトランプという存在が、米国を混乱させ、世界での地位を危うくしているのは間違いない。
そしてこの「トランプ劇場」が、少なくとも来年夏にある共和党の大統領候補の指名まで続く。トランプ氏が指名候補とならなければ、支持者らがさらに活気づき、社会不安をあおる事件に発展するかもしれない。米国では、この劇場の主人公に翻弄(ほんろう)される事態が続いている。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2023年5月15日号より抜粋