俵万智さん
俵万智さん

 若者たちの間で広がる短歌ブームについて、俵万智さんは「一つ一つ吟味して言葉を紡ぐことの面白さに気付いた人たちが続けてくれている」と話す。短歌の魅力について聞いた。

【写真】アイドルたちが本気で短歌を詠む「アイドル歌会」

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――「短歌ブーム」をどう見ていますか。

 「牧水・短歌甲子園」の審査員や雑誌の新人賞の選考委員、それから新聞歌壇の選者をしていますが、ここ10年ぐらい、若い人が短歌の世界に増えてきたと肌で感じています。マスコミで取り上げられ始めたのは最近ですが、それ以前から広がっているという印象です。

――この広がりの要因は。

 若い人たちは、SNSで短い言葉を用いて発信することに慣れているので、彼らが短歌と出会ったときにハードルの高さをそれほど感じないのかなと思います。

 それから、ここ2、3年で言えばコロナ禍も大きいですね。私もこれまで手を出せなかった韓国ドラマを観てハマったので、同じように短歌が気になりつつも始められなかった人たちが、取り組める時間を持てたのかなと思います。

――新宿・歌舞伎町のホストたちの歌会や「アイドル歌会」などにも関わられています。

 ホストの子たちも、アイドルの子たちも最初はイベントに誘われるなどして入ってくるのですが、やっているうちにのめり込んでいく子が何人もいます。自分の大切な表現手段として本気で取り組んでくれてるなぁ、とそばで見ていて感じます。

 現代って、情報過多で“言葉まみれ”になっているけれど、その中から大事な言葉を見分ける力がすごく試されてる時代だと思うんです。そんな「言葉のインフレ状態」になっている中で、一つ一つ吟味して言葉を紡ぐことの大切さや面白さに気づいた人たちが続けてくれているのではないでしょうか。

――ホストの方々との歌会は月一回開かれているそうですね。

 そうです。雑誌の新人賞に応募したいって人たちも出てきました。雑誌は30~50首くらいの連作にしないと応募できないので、自分なりの大きなテーマを見つけて歌を作る、というやり方になっていくんです。それぞれが自分なりのテーマを見つけて、それを率直に、一生懸命書いてきてくれるので、思わず胸を打たれます。色々訳ありの人生を歩んできた子も多いので。

 初めは小さな幸せとか気づいたことを形にする喜びから入って行って、もう少し踏み込んで、自分の人生の中で、連作で歌うに値するテーマってなんだろうって人生を振り返る。短歌はそういうこともできるということを、改めて教えてもらった気がします。

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