“世界一狂暴なイラストレーター”銀角さんを伴って丸福を訪れた西原さんは「うわさどおりのこきたない店に長蛇の客」と書き、客の学生に乱暴な口を利く女性店員を「店内入るなり爆弾ババア」とぶった切る。名物の玉子そばをひと口すすった銀角さんは「ベビースターラーメンに湯入れた方がまだうまいぞー」と憤る。
その10年前に丸福を訪れていたコータリンは、再訪時に店の前の待ち人が数人しかいなかったことに「あるべき行列の迫力がない」と驚き、「かつてのラーメン・ランドはデパートの屋上みたいにさびれてしまった」と嘆いたのだった。
丸福は後に移転や閉店を繰り返し、現在は荻窪駅近くで健在だ。店主も代替わりし、“爆弾ババア”ももういないという。営業時間が終わった直後に訪れると、店主は「恨ミシュラン? 知らないなぁ。悪く書いたって? 30年前だろう? 誰も覚えてないよ。ウチには悪い評価をされたからって、来なくなるようなお客さんはいないんじゃないかな。だってみんなウチのラーメンが好きで来てるんだから」。
そう言うと閉店作業に戻っていった。
昼時には今も行列ができるという春木屋も、夕方はゆっくり座れるほどの入り。店のリーダーらしき人に取材で来た旨を伝えると、「西原さんや神足さんは知ってますが、『恨ミシュラン』は知らないです。30年前は私はまだ子供でしたし(笑)。今の店には当時を知る者はいません。たとえ記事で悪く書かれたことがあるとしても、今はSNSでみんなに好き勝手書かれる時代ですよ。いちいち気にしてたら商売なんてできません。そもそもウチの味が嫌いな人は来ないし、ウチの味が好きな人が来てくれると思ってる」と話してくれた。(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日 2023年5月19日号より抜粋