結局、首相時代の「国主催の行事の私物化」と前夜祭での「地元有権者への『ばら撒き』」という単純な「不当・違法な行為」であった桜を見る会問題も、「国会で圧倒的多数を占める」という「多数決の論理」で押し切った安倍氏は、2021年の衆議院選挙が目前に迫った時期に、霊感商法、高額献金等の深刻な被害が指摘されていた旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連団体・天宙平和連合(UPF)の国際イベントへのリモート登壇という、越えてはならない一線を越えた。それが、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」や旧統一教会の被害者等からの反発を招き、旧統一教会に家庭と人生を破壊されたことで憎悪を募らせていた信者の息子による銃撃事件の引き金になり、安倍氏は生命を奪われることになった。

 首相退任後も自民党の実力者だった安倍氏が突然亡くなったことで、それまでの「安倍支持派」「反安倍派」の対立は一層高まり、「二極化」が進む中、殺害事件の数日後に岸田文雄首相が実施を表明した「安倍元首相国葬」の賛否をめぐって、さらに対立が深まった。

 安倍氏銃撃事件の動機が、旧統一教会への憎悪によるものだったと報じられたことを契機に、旧統一教会と自民党議員の関係、選挙応援等が問題となり、その関係の中心に安倍氏がいた疑いが指摘されるなどして、安倍氏の国葬実施の理由についての説明が困難になっていった。

 岸田首相は、国民に弔意を求めず、実質的には「内閣葬」にすぎないのに、「国葬」であるように偽装したことに加えて、「内閣府設置法」という具体的法令によって国葬実施が根拠づけられている、と政府の正式答弁とも異なる説明を繰り返した。それは、国葬賛成派に「法令遵守上の根拠」を与えて、安倍支持派に寄り添うものだった。

 安倍氏銃撃事件の影響もあって、2022年7月の参院選では自民党が圧勝した。国会における圧倒的多数の議席が一層不動のものとなったこともあり、「多数決の論理」と「法令遵守」で押し切るという、安倍氏の独特の手法が岸田政権に継承されたのである。

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安倍政権に配慮した検察の対応