2017年の衆院選での自民党の安倍氏と岸田氏
2017年の衆院選での自民党の安倍氏と岸田氏

 第二次安倍政権が発足し、8年近くの長期政権の後、菅(すが)政権、そして岸田政権へと継承された約10年の間にあらゆる面で「単純化」が進んだ。特に「多数決ですべてが解決する」という「単純化」は、安倍政権が残した“負の遺産”のひとつであろう。森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題などで、虚偽答弁が横行したのも「多数決の論理」が原因といっても過言ではない。朝日新書『「単純化」という病 安倍政治が日本に残したもの』で“物言う弁護士”郷原信郎氏が、岸田政権にも継承された問題点を指摘。同書から一部抜粋、再編集し、解説する。

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 第二次安倍政権と現在の岸田政権に共通するのは、「法令遵守と多数決ですべてが解決する」という考え方である。選挙で多数を占めたことで、法の制定も解釈も、極論すれば「好き放題に」行うことができる。それが、「法令遵守」に反しない限り何の問題もない、という考え方で正当化されると、権力者の行いを抑制するものは何もない、ということになる。

 森友学園問題は、地下から大量のゴミが“発見”され、その処理費用をどのように見積もるかという特殊な問題が売却価格に関係した「極めて複雑な国有地売却問題」だった。

 しかし、それについて国会で、最初に質問を受けた際に、安倍氏は、「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁し、「自分や妻の関与の有無」という「争点」を自ら設定し、それに「政局的位置づけ」まで与えた。それによって、この問題は、「安倍首相と昭恵氏の関与の有無」に「単純化」されていくことになった。その「挑発的問題設定」を受け、野党側は「政局的追及」を行った。

 それに過剰反応したのが財務省であり、佐川宣寿(のぶひさ)理財局長は、「売却に関する資料は廃棄済み」などと虚偽答弁を行い、その後、近畿財務局では、国会に提出を求められた「国有地売却に関する決裁文書の改ざん」という、議院内閣制における国会と行政の関係を根本から破壊するような違法行為まで行われた。そして、それが、純粋な公務員としての使命感や倫理観に反する「決裁文書改ざん」を実行するよう命じられた近畿財務局職員の赤木俊夫氏が自死するという誠に痛ましい事態を招いた。

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モリ・カケ・サクラ問題を多数決の論理で押し切る