石原には一本取られたが、巨人内野陣も判定絡みの演技で何度か話題を提供している。

 11年4月20日の阪神戦では、ブラゼルの二塁後方への飛球を、脇谷亮太が捕球直後、落球したにもかかわらず、右手でボールを握りながら「捕りました」とアピール。二塁塁審はアウトと判定し、脇谷は試合後の「VTR?テレビの映りが悪いんじゃないですか」の発言とともに阪神ファンの顰蹙を買った。

 20年9月17日の阪神戦でも、満塁のピンチでセカンド・若林晃弘が木浪聖也の内野安打になりそうなゴロを処理した直後、一塁走者・陽川尚将に自ら当たりにいくような不自然な動作で守備妨害アウトを成立させたが、守備優先を原則とするルールの盲点をついた印象も否めなかった。

 これらの事例とは逆に、誰もが演技と確信したのに、実はそうではなかったのが、同じ巨人の捕手・加藤健の“日本シリーズ危険球事件”だ。

 12年11月1日、日本ハムとのシリーズ第5戦、巨人は4回無死一塁で、加藤が送りバントの構えをした直後、多田野数人の初球が頭部付近を襲う。

 加藤はその場に倒れ込み、球審は頭部死球と見なして多田野を危険球退場にした。

 ところが、VTRでは、ボールは加藤に当たっていなかった……。当然のように日本ハムファンから大ブーイングが起き、多田野も「騙すほうも騙すほう、騙されるほうも騙されるほう」と、死球を装った演技と思い込んだ。

 ところが、真相は違っていた。過去に2度頭部死球を受けた加藤は、ボールが顔面付近に来た瞬間、恐怖心がよみがえって目を閉じてしまい、何が起きたかわからないまま、倒れ込んだ。そして、目を開けると、死球と判定されていた。

 現役中は「何を言っても言い訳になる」と口を閉ざした加藤だが、引退後、「僕はこの日本シリーズの出来事が、引退するまでずっと心に突き刺さっていた。逆の立場なら、僕も観客席からブーイングしていただろう」(自著「松坂世代の無名の捕手が、なぜ巨人軍で18年間も生き残れたのか」竹書房)と打ち明けている。

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騙されたほうも「参りました!」と脱帽