野球はある意味では騙し合いのスポーツでもある。過去には“グラウンドの詐欺師”と呼ばれた選手もいたように、演技によって生まれた珍プレーも数多い。
もし「プロ野球演技大賞」があれば、受賞間違いなしと思われるのが、広島の捕手・石原慶幸だ。
先輩捕手・達川光男も“死球になったフリ”で名を売ったが、石原の演技は、“走攻守”三拍子揃っていた点で特筆に値する。
まずは守備編。2013年5月7日のDeNA戦、6回2死一塁、打者・井納翔一の場面で、石原は久本祐一の初球をミットに当てて、落球してしまう。
ボールは足元にあるのに、石原はまったく気づかない。これを見た一塁走者・石川雄洋は二塁に向かおうとしたが、ここで石原が一世一代のハッタリをかます。咄嗟に地面の砂を掴むと、あたかもボールを持っているように見せかけて、二塁に送球するポーズをとったのだ。
慌てて一塁に戻ろうとした石川だったが、間もなく石原の行動を怪しみ、再び二塁へ走りかける。すると、石原は再び石川を睨みつけ、“一握の砂”でけん制。ついに進塁を阻止した。
お次は打撃編。11年4月28日の阪神戦、広島は6回無死一塁で石原が送りバントを試みたが、バットから数十センチ浮く小飛球になった。ところが、阪神の捕手・城島健司が捕球しようとした直後、石原はもう一度ボールをバットにコツンと当てるではないか。
故意の2度打ちはアウトのはずなのに、球審は死角で見えなかったのか、それとも巧妙な演技に惑わされたのか、ファウルを宣告した。阪神側の猛抗議も却下され、“儲けもの”の打ち直しとなった石原は、追加点につながる右前安打を放っている。
そして走塁編。16年7月27日の巨人戦、広島は5回1死満塁で田中広輔が二塁にライナー性の打球を放つ。山本泰寛がワンバウンドで捕球し、二塁に送球してアウトを取った。併殺崩れの間に広島は1点を返したが、二塁走者の石原はこのどさくさに紛れて、アウトになって三塁ベンチに戻るフリをして歩きながら、まんまと三塁へ。この演技に巨人内野陣はすっかり騙されてしまった。