要するにアメリカという国が、日本の岸田首相をこの地域まで「連れてきた」ということ。そして、キーウのようなユダヤ人の大虐殺があったような地域にドイツが戦車を送るといったようなことは、ひじょうに複雑なことです。私はこのいまの戦況を非常に心配し、不安を持って眺めています。
池上 アメリカが日本の岸田首相をキーウに「連れてきた」ということについて、トッドさんは、そもそもアメリカというのは「他国を戦争に向かわせる国だ」とおっしゃっていましたね。なぜ、アメリカはそういう国なんでしょうか。
トッド アメリカも昔はそうではなかったんですけれども、だんだんとそういう国になってしまった、というふうに思います。
というのも、そもそもアメリカはヨーロッパの国々などからは遅れて国際的な大きな勢力となっていったわけです。そこからだんだんと「戦争の文化」というものが育っていったと思います。これは、前にも述べたことですが、アメリカの領土自体が戦争に侵されたことがないというのも、大きな原因の一つだと思います。
ヨーロッパや中国、日本といった国のように、その土地での戦争が起きることを経験していない、ということが大きいわけですね。
そして、このアメリカの問題というのは英語圏全体の問題にもなってきている。一つの危機だというふうに思っているわけです。
それに加えて、乳幼児の死亡率が高まっているとか、文化的な危機みたいなものとかも見られるなど、ひじょうに退行的な側面があって、何と言いますか、どこか虚無の感覚みたいな、「何もそこにはない」というような感覚が広がってしまっている、というふうに感じるんです。
そういった意味でも、危険になってきていると思いますね。
私は「反米主義」ではなく、今は「アメリカフォビア(米国嫌悪)」というふうに自分のことを言っています。それは、アメリカが怖いからなんです。私自身も恐れるようになっているわけです。