■マグロ漁船の船員のように

 1978年に愛知県で生まれた加藤さんは、中学のときは文芸部に所属して小説や詩を読んだり書いたりし、高校ではESS部で英会話を楽しんだ。そして大学卒業後、英語を教えたいと県内で中学校教師になった。

 しかし、最初に配属された中学校では、競技経験のないハンドボール部の顧問を任された。その後もバスケットボール部、卓球部、水泳部の顧問にもなった。運動部の文化には全くなじめず、顧問は苦痛でしかなかった。

 顧問の仕事のために平日は早朝に家を出て、帰宅は深夜。さらに休日も出勤する。それが日常だった。「本業」である英語の授業にも支障が出ていた。

「運動場を駆けずりまわるような生活で、満足いく授業の準備ができない。自分がやりたかったこととは違う。自己実現が全然できなかった。人生の10年を部活に奪われた、というのがまさに実感です」

 喜びを感じる瞬間は「ほぼ一瞬もなかったと言っても過言ではない」と言い切る。

 顧問をしている同僚たちの生活も、似たようなものだった。

「部活でとにかく時間が奪われる。教員と教員以外のパターンの夫婦が、特に苦しむみたいです。夫はマグロ漁船に乗っているような状態で、全然家に帰ってこない。妻はワンオペ育児で、どれだけ苦しい苦しいと言っても部活に夫を奪われる。いわゆる『部活未亡人』です。

 お互いに教員だったらまだ理解できると思うんですけれど、一般の人からすると、教員のそういう働き方って理解しがたい。それで離婚してしまうケースもあるようです」

 加藤さんが何より嫌だったのは、生徒が大会に出場するときに求められる審判業務だった。

「引率であれば教員の仕事として理解できる部分もありますが、審判は大会運営側の仕事で、これを当たり前のようにやらされるのは全く納得できませんでした。誤審をしたときには、とても教育者とは思えないような口汚い言葉でクレームをつけられる。審判の仕事は非常にストレスでした」

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「できない」とは言えない