
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年6月26日号には応用地質 メンテナンス事業部技術部 グループマネージャー 佐藤元紀さんが登場した。
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全国各地の道路に設置された1万1千ほどのトンネル。コンクリート製の天井や壁にひび割れやはく離といった異常がないかくまなく探し、あれば取り除いたり、その後の対策を提案したりするのが、トンネル点検技術者だ。
高所作業車に乗って天井や壁に手で触れられる距離まで近づき、危険な場所がないか目視で点検する。同時に片手に持った木製の柄のハンマーで全面をもれなくたたき、音を聞き分ける。
ドスドスと濁った音がすれば、異常は深いところにある。ペコペコという軽い感じの音がすれば、問題は浅いところにある。
コンクリートは強度が高いため、異常がなければ金属音のような甲高い音がする。この聞き分けにこそ熟練の技が求められる。
異常な音を聞き取ると、その部分をたたき落として取り除く。傷が小さいうちに異常を発見して、処置することがトンネルを長持ちさせることにつながる。
たたき方にもコツがある。もろくなった部分を力任せにたたけば周りのコンクリートまで傷め、除去する部分を増やすことになる。「手首の力を利かせ、リズムよくたたくのがポイントです」
今はそう言えるが、若い時は失敗も多く、先輩にしかられた経験は数え切れない。
作業はトンネルを一部通行止めにするなどして行うため、できるだけ速やかに進める必要がある。交通量が少ない夜中の作業も多く、必ず決められた日程で終わらせなければならない。張り詰めた雰囲気の中、10人ほどの作業員がただひたすら全面をたたく音が響く。
作業を発注するのは行政側だが、利用者の安全のために働いているという自負がある。特に生活の一部としてトンネルを使っている地域の住民から感謝の言葉をかけられると、やりがいを感じると同時に、身の引き締まる思いがする。
2004年の新潟県中越地震の被災調査では、コンクリートがはがれ落ちたトンネルをいくつも目の当たりにした。
「抜かりない点検と事前の対策こそがすべてだと、改めて肝に銘じた出来事でした」
入社以来メンテナンスを担当して25年。「AIなどがどれほど進歩しても最後は人の目で見て音を聞くことが大切。後輩にも伝え続けています」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2023年6月26日号