2018年には創刊100周年を迎えた、宝塚歌劇の歴史を体現するこの雑誌を小竹さんは丹念に読んでいく。

「創刊当時の『歌劇』には少女歌劇以外の記事が多いんですよ。当時の演劇・音楽、そのほか文芸全般に関わることから、世間を賑わせた事件、動物への音楽実験の結果など、宝塚とは直接関係がない記事も掲載されています」

 小林と親しかった与謝野晶子をはじめ、錚々たる文学者、文化人も寄稿している「歌劇」は、雑誌としての魅力もある。

「『高声低声』は今も続いている読者からの投稿欄ですが、驚くのは批判的な意見も掲載し、頻繁に論争が起こっていたことです。SNSならば炎上ですが、読者がケンカ腰で議論を交わしています」

 宝塚ならではの「組」が誕生した経緯や、生徒と呼ばれる劇団員たちの日常を綴った文章、関東大震災のあと、六代目尾上菊五郎一座の公演が宝塚の舞台で行われたことなどを、小竹さんは詳しく、かつ軽妙に読み解いてくれる。

 音楽歌劇学校の創立、突然の火事、そこからの復興と、宝塚の歩みが平坦なものではなかったことも、「歌劇」は伝えてくれる。

「大正時代の『歌劇』を読んでいると、宝塚の生徒、ファン、小林一三をはじめとする制作陣、そして時代の息づかいが伝わってきます。宝塚が100年以上愛されてきた理由が見えてくるんです」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2023年5月29日号