全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年5月29日号には鹿島建設 技術研究所 上席研究員の取違剛さんが登場した。
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世界初の製造過程で二酸化炭素(CO2)を吸収し固定する、植物のようなコンクリート「CO2−SUICOM(シーオーツースイコム)(R)[TK1] 」。
この夢のような技術を開発したのが取違剛さんだ。
大学院時代から研究してきた、大のコンクリート好き。入社後も、耐久性を高める研究チームに配属され、研究漬けの日々をおくった。
2008年ごろ、社会の環境意識が高まり、CSR(企業の社会的責任)の取り組みが盛んになっていた。コンクリートはセメントを主原料として作られ、製造時に排出される大量のCO2をいかに削減するかが長年の課題だった。そこで、排出量を抑えるコンクリートの開発に着手した。
大掛かりな実験を繰り返すが、一つうまくいっても10の課題が残るという有り様。実験中に酸が発生し、設備が錆びてボロボロになってしまったこともあった。
「CO2−SUICOM」は、コンクリートの製造過程でCO2を吸収させ、定着させるために、セメントの代わりに特殊な混和材を用いて化学反応を起こさせる。だが、通常の生産工程と違うので、コストが高くなってしまう。
専門以外の知識が豊富に必要で、様々な分野にわたって猛勉強した。開発から2年後に技術自体は確立できたが、コストダウンの推進など製品化の次なる課題が待っていた。
チームで研究を続けるなかで、「会社の役に立つのか」「才能を他で生かせ」と、言われたこともあった。
3年後、製品として世に出すことができた。太陽光パネルの基礎や道路のブロックに採用されたのだ。さらなる改良を重ねたが、18年に会社から研究中断を告げられた。
途方に暮れていた矢先に、経済産業省から一本の電話がかかってくる。
「CO2−SUICOM」が19年の世界経済フォーラムで脚光を浴びたのだ。これがきっかけとなり、技術開発が再開されることとなった。
取違さんの研究は10年以上前から、カーボンリサイクル時代を見越していたのだ。
夢は、世界中の建設資材として使用されること。
本当にそうなれば、30年には、コンクリートのCO2排出量が6~14億トン分削減できる。現在の排出量の半分から0に近い数値を実現できる見込みだという。
(ライター・米澤伸子)
※AERA 2023年5月29日号