私が死の向こう側を確信したのは、戦友である患者さんを数えきれないほど見送ったからです。私は戦友が倒れたときには、その旅立ちを見送るべきだと思い、実行にうつしてきました。そして気がついたのです。死後、早い人で1、2分、遅い人で1時間ぐらいすると、亡くなった患者さんの顔が素晴らしくなるのです。例外はありません。その顔を何度も見るうちに、これは、この世のおつとめを果たして、晴れて故郷に帰るときの安堵の表情だと思うようになりました。では、故郷はどこにあるのでしょうか。それは死後の世界にあるのです。人は虚空からやってきて、死んで虚空に帰っていく。死はそのための旅立ちのときでもあるのです。

 このように生と死をひとつのつながりのなかでとらえると、世界が変わります。さらにもう一歩進めると、生と死は実は同じものなのだとわかるのではないでしょうか。それこそがナイス・エイジングが最後に目指すところの生と死の統合なのです。

 ナイス・エイジングには終わりがありません。ナイス・エイジングのその先には、虚空への道が開けてくるのです。その虚空への道は、故郷に帰る道なのですから、喜びに満ちています。素晴らしき道なのです。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2023年6月9日号

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