会社員の女性が1月、ストーカーの男に刺されて亡くなったJR博多駅近くの現場。今も花や飲み物などが手向けられている

■臨床家やカウンセラー

「ストーカーに『相談的』かつ『援助的』に関わり、そのプロセスで援助者に信頼をよせて本人が同意すれば治療につなげるなどの仕組みを構築していくことが大切です。ストーカー規制法の制度にそうした加害者のケアを組み込んでいく司法臨床が必要になります。ストーカーに特化した臨床家やカウンセラーの養成も重要です」(廣井教授)

 20年以上、ストーカー被害者支援や加害者のカウンセリングに取り組むNPO法人「ヒューマニティ」(東京都)理事長の小早川明子さんは、規制法の限界を指摘し、国民の議論とコンセンサスが必要だとした上で、規制法の運用を見直すべきだと言う。

「今は、禁止命令を受けるほど危険なストーカーに対しても、まだ犯罪を起こしていないとの理由から何かしらの義務を負わせることができません。禁止命令中、引っ越し先を警察に伝える義務すらないのです。少なくとも警察は危険なストーカーの居場所を常に把握すべきです。警告が効かないほど衝動性が強いストーカーには警察と精神保健行政が連携し、医療へつなげることが求められると考えます」

 ストーカー問題に詳しい常磐大学元学長の諸澤英道さん(被害者学)は、ストーカー規制法そのものを抜本的に見直すべきだと語る。

「規制法は改正を重ね、つきまといやメールなど九つの行為について警察が加害者にやめるよう警告でき、逮捕もできるようになりました。しかし、人の行為にはありとあらゆることがあり、それを限定して条文に記すということは本来ありえません。つまり、『行為』を限定したことによって、条文に明記されていない行為はストーカーには当たらないという運用が行われているのです」

■義務教育の段階から

 諸澤さんによれば、日本のストーカー対策は欧米と比べ20年は遅れている。例えばドイツやカナダなどでは「ストーキング罪」の最高刑は10年、英国は5年、オランダは3年。日本は、禁止命令等の警告に違反した者は6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に過ぎない。

「欧米では、90年代からストーキングは嫌がる相手の気持ちを無視してつきまとう行為であり、ハラスメントの一種だとして行為を規制する法律が整備されてきました。日本は、ストーキング行為をあまりに軽く見ています。日本もすべてのストーカー行為に対応でき、厳しく罰することができるよう規制法を改正すべきです」(諸澤さん)

 その上で教育の必要性を説く。

「他人が嫌がることはやってはいけない、人を傷つけ苦しめてはいけない。そうしたハラスメント教育を、義務教育の段階から徹底して行うことが重要です。民主的な社会になればなるほど、一方で他人の嫌がる行為をする人が出てきます。しかし、それは重い罪だということを、自由とワンセットにして教育の場で教えることが大切です」

 課題は多い。だが、解決しなければ、痛ましいストーカー犯罪は防げない。(編集部・野村昌二)

AERA 2023年3月20日号より抜粋

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