広告最大手の電通などによる談合事件が起きた東京五輪・パラリンピック。無駄に経費が膨らみ「ブルシット(クソどうでもいい)五輪」と指摘する声も上がる。AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。
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2021年夏の東京五輪・パラリンピックをめぐる談合事件で、主導したとされる広告最大手・電通など運営側企業のコンプライアンス(法令や社会規範の順守)欠如が明らかになった。東京地検特捜部は電通グループなど6社を独占禁止法違反(不当な取引制限)で起訴し、各社幹部ら6人と大会組織委員会の元次長も起訴した。
朝日新聞などによると、本大会前の「テスト大会」を運営する企業を選ぶための入札で、発注者の大会組織委員会と受注者の広告会社などが事前にどの社が受注するのかを調整していた。その結果、大半が1社しか入札に参加せず、予定価格に対して落札額が高くなった。さらに本大会の運営については入札すらせず、テスト大会で落札した企業が組織委と随意契約した。
こうした談合によって総額437億円の契約が交わされた。発注者の組織委と受注者の電通などが一緒に決めた事実上の「官製談合」だ。当初7340億円だった五輪経費が、道路整備費用なども含めて5倍以上の3兆6800億円に膨れ上がった要因の一つでもある。
■「いつの時代の事件か」
広告業界が独禁法で摘発されたのは初めて。公正取引委員会出身の東京経済大学教授・中里浩さんはこう話す。
「世の中に誤解があって、民間の取引であっても本来は談合の問題が生じるのです」
例えば、過去にも自動車メーカーから部品の発注があったとき、どの部品メーカーが受注するか調整が行われたことが独禁法違反にあたると判断された事件があったという。
「今回摘発されたのは、大会運営費に公金が投入されているため、より悪質性が高いからだと思います」(中里さん)
今回の事件は、電通が他社に仕事を回して受注調整を行う「まわし」と呼ばれるもので、業界でよくある商習慣だった。
「『まわし』というのはかつての建設業界、印刷業界でよく聞かれた言葉です。1990年代ごろに摘発を受けてから聞かれなくなりました。独禁法の強化をきっかけに他の業界でも独禁法への意識を持つようになったはずなので、今回はいつの時代の事件かと思いました。信じられないコンプライアンス意識です」