人口13万人ほどの神奈川県座間市。この小さな自治体で、高齢者、生活困窮者、ひとり親家庭といった、住み替えが困難な人たちの物件仲介に注力している不動産会社がある。
座間市は困窮者支援の取り組みで注目を集めているが、なぜ民間企業でもそうしたことが可能なのか。主な理由に、座間市に横溢する「どんな人にも応じる」気風と、官民の有機的な連携が挙げられる。気鋭のジャーナリスト・篠原匡氏の新刊『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』を一部抜粋し紹介する。
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■「高齢者は断る」不動前業界。ならば自分たちで……
ワンエイドは、座間市内で住まいサポートや生活サポート、フードバンクなどを手がけるNPOだ。事務所の隣には、ワンエイドの理事で、松本の高校時代の同級生だった石塚恵が設立したプライムが軒を連ねる。
プライムは不動産会社だが、住み替えが困難な高齢者や生活保護利用者、ひとり親家庭のような困窮世帯向けの物件仲介に力を入れており、困窮者向けの仲介が全体の半分以上を占める。ワンエイドが進める困窮者向けの地域居住支援事業を不動産仲介という実務面で支える存在だ。仲良く並ぶ事務所を見れば、まさに「姉妹」のような関係である。
松本と石塚がワンエイドの原型を立ち上げたのは2009年にさかのぼる。
当時の松本は仕事に子育て、親の介護と多忙を極めていた。とりわけ、親の介護の際には病院や市役所に付き添うことも多く、そのたびに仕事を休む必要があった。それを煩わしく思った松本は、同じ悩みを抱えていた石塚と家事援助や付き添いなどのサービス事業を立ち上げた。いわば、自分たちに必要なサービスを自分たちで作ってしまったわけだ。2011年のNPO法人化の後は、有償の福祉運送サービスにも乗りだしている。
そして、相談に来る高齢者や障がい者の困りごとに一つひとつ対応する中で、粗大ゴミの運び出しや庭木の剪定、不要品の整理などの「生活サポート」や安否確認のための電話による「見守りサービス」、住み替えに困っている人向けの「住まいサポート」とサービスを広げていった。