自立サポート担当として困窮者の相談に乗ると、「家賃を払えず家を追い出される」「住み替えたいが借りることができない」という声が想像以上に多く聞かれた。そのため、住まいの問題が困窮者支援の本丸だと感じていたが、なかなかいい解決策を示せずにいた。

 この人たちと組めば、困窮者の住まいの問題に取り組める──。そう直感した林だが、一つネックがあった。ワンエイドの存在が、市役所の中で全くといっていいほど認知されていなかったのだ。

 困窮者向けの住まいサポートは間違いなく必要な事業だが、一歩間違えば、「貧困ビジネス」と誤解される可能性もある。現実を見れば、困窮者支援を装いつつ、実際には困窮者から搾取する組織も存在している。

■困難を極めたフードバンクづくり

 そこで、林は居住で連携する前に、別の分野での連携を申し出ることにした。それがフードバンクである。

 困窮者に対する食料支援には切実なニーズがある。また、フードバンクは地域の支え合いであり、最初の連携として最適だと考えたのだ。

「最終的に連携したいのは居住のところで、ワンエイドの力が間違いなく必要になると思っていました。ただ、役所は慎重なところなので、全く知られていないところと連携すると、『大丈夫か?』という反応になってしまう。それだけは避けたいと考えていました」

 そして、林がフードバンクの立ち上げを提案すると、松本と石塚からも「是非!」というポジティブな反応が返ってきた。彼女たちもフードバンクの必要性を痛感しており、林の提案が渡りに船だったのだ。

 住まいの問題でワンエイドに相談に来る人々の中には、年金や生活保護費が支給される前に食料が底をついてしまう人も少なくない。そういう人に対して、松本は弁当などを買って配っていた。

「3日も顔を見ないと、こちらが心配になって……。しかも、物件を斡旋すればするほど、そんな人が増えるので、私たちも大変だったんです」

 ただ、始めてみると、フードバンクは想像以上の難事業だった。まず、食料を集める苦労である。

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