住まいサポートを始めたのは、二人が不動産会社の従業員だった時の体験に基づいている。不動産会社に勤務していた時に、「住み替えをしたい」と相談に来る高齢者が少なからずいた。家賃の滞納などのために今の住まいを出なければならず、今よりも安い物件に住み替えたいという相談だ。

■官民を連携させた神奈川県座間市生活援護課の英断

 ただ、不動産会社にとってお金のない高齢者は面倒な客である。

 高齢者は孤独死する恐れがある上に、トイレが近いため、物件見学に連れて行っても頻繁にトイレに寄らなければならない。同じ物件を紹介するのであれば、手間のかかる客よりも、大学生など若者を相手にした方がはるかに効率的だ。同じ理由で、障がい者やひとり親家庭もできれば避けたい客である。

「『高齢者が来たら断れ』と社長に言われていました」

 そう石塚は振り返る。

 もっとも、ワンエイドとして住み替え支援を始めたものの、実際に物件を借りる時に不動産会社に断られるのは変わらない。ならば、「自分たちで不動産会社を作ってしまおう」と思い立つ。それが2012 年に石塚が設立したプライムである。

 もちろん、家賃の滞納や孤独死を嫌って困窮者の入居を渋る不動産大家は数多く、入居可能な物件を確保するのには苦労した。そこで、孤独死を防ぐために見守りサービスをつけたり、理解のあるアパート大家を開拓したりと、手を尽くして管理物件を増やしてきた。結果、プライムが困窮者に仲介する物件は年200戸を数えるまでになった。

 そのワンエイドがフードバンクに乗り出したのは、2016年1月のことだ。きっかけは、座間市生活援護課の林課長(当時)の一言だった。

「座間にはフードバンクがありません。松本さんたちでやりませんか?」

神奈川県座間市生活援護課の林星一課長(当時)。撮影/Ricardo Mansho
神奈川県座間市生活援護課の林星一課長(当時)。撮影/Ricardo Mansho

「断らない相談支援」を実践する上で、外部の組織や事業者と連携することが不可欠だと感じた林は、連携を模索するため、2015年夏頃から座間市内で活動するNPOや福祉施設などを訪問していた。

 そして、2015年の晩秋、林はワンエイドの下を訪れる。そこで、松本と石塚に話を聞くと、「変わったところだな」と感じた。高齢者など困窮者の住まいの問題に、真正面から取り組んでいるNPOは他になかったからだ。

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