例えば、児童養護施設を出た後、企業の寮に住みながら働いていた若者がいた。仕事が合わずに辞めたが、未成年で保証人になる親族もいないため、部屋を借りることが現実問題として難しい。そこで、ワンエイドが物件を借り、転貸することで対応した。

 また、近隣にある高速道路のサービスエリアで車上生活を送る高齢者の夫婦もいた。2 年間、サービスエリアで暮らしていたが、妻が認知症になり、行き場を失っていた。この時は、レッカー車を手配して車を売却すると同時に、住居を確保して生活保護につなげた。

 夫と離婚して家を追い出されたという老婦人の相談を受けたこともある。最初に相談に乗ったのは座間市役所の広聴人権課だったが、女性の話にとりとめがなく、しばらく話を聞いて「住む場所がない」という住まいの問題だと理解した職員は女性をワンエイドにつないだ。

■福祉と経済の「ズレ」を埋めるのが仕事

 ところが、松本がじっくり話を聞いたところ、優先すべきは別れた夫に対する慰謝料の請求だと感じたため、弁護士の相談に結びつけた。

 ワンエイドで筆者が松本の話を聞いている時も、派遣切りにあった後、ワンエイドを通して住まいを見つけた若者がふらっと訪ねてきた。この若者は幻聴や幻覚に悩まされており、「通風口からコビトが出てくる」「隣の住民が部屋でうんちをした」などと言っていたが、松本は面倒くさがる様子も見せず、丁寧に話を聞いていた。

 もちろん、困窮者支援の現実を見れば、お涙頂戴のきれいな話ばかりではない。借りた部屋をメチャクチャにしたまま退去する人もいれば、家賃を払わずに逃げ出す人もいる。また、困窮者に貸せる部屋には限りがあり、誰にでも貸せるわけではない。

「相談に来る方は、みなさん『駅のそばがいい』『新しい部屋がいい』と仰いますが、駅から近く新しい部屋は賃料が高く、生活保護の住宅扶助や手持ちのお金では借りられない。福祉関連の人にも『かわいそうでしょ。どこか探してあげてよ』とよく言われますが、大家さんや不動産会社は経済の論理の中で動いている。そのズレを埋めるのが私たちの役割かなと思っています」

<著者プロフィール>しのはら・ただし/作家・ジャーナリスト・編集者。慶応義塾大学卒。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長などを経て、2020年4月にジャーナリスト兼編集者として独立。著書に『グローバル資本主義vsアメリカ人』(日経BP)など。

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