だが、高校野球に目を向けると……。
「ここ数年の傾向だと思いますが、高校野球で、打撃が素晴らしいエースピッチャーや、登板しない時は別のポジションについて主軸を打つ投手。ポジションを兼務する選手などについて、『二刀流』と表記する記事が散見されるようになりました。高校野球では投手も打撃をがんばるのは昔から当たり前のこと。エースで主力打者といった投打ともに素晴らしい選手はたくさんいますし、投手の能力が高い野手もいます。大谷の偉業で脚光を浴びた『二刀流』という言葉ですが、高校球児への使い方には違和感があります」
こう話すのはスポーツ紙の元プロ野球担当記者。確かに、高校時代、投打で注目された一流選手はたくさんいる。
元大リーガーではエースで主力打者だったイチロー氏(愛工大名電)や松井稼頭央氏(PL学園)。巨人の中田翔(大阪桐蔭)もマウンドに立たない時は野手として出場し四番を打ったが、「二刀流」という騒ぎ方はされていなかったはずだ。
「ネットのコメント欄の『当たり前だ』という指摘はまさにその通りで、これを『二刀流』と呼ぶなら、きりがないほど該当する選手がいます。部員の少ないチームでは複数のポジションを守る選手もいますから、地方大会を見れば『三刀流』もいるのでは(笑)」(前出の元記者)
高校時代、打者としても注目されたという元巨人投手はこう首をかしげる。
「僕もエースでクリーンアップだったけど、『二刀流』でもなんでもないでしょ。今の高校生たちだって、エースで四番は二刀流、だなんて思ってもいないでしょう。投手に専念する子なんていなくて、投げて打って勝つのが高校野球だからね。プロや、せめて指名打者制があるレベルの高い大学野球リーグで成績を残して、初めて『二刀流』って言えるんじゃないのかな」
今秋のドラフト候補とされる日本体育大の矢沢宏太選手は、指名打者制のある「首都大学野球リーグ」で、投手として登板する時も主軸を打ち、投げない試合では主に指名打者として出場している。過去には投手、外野手としてベストナインに選ばれるなど実績を残しており、れっきとした「二刀流」である。ただ、さらに上のレベルで二刀流を貫けるかは未知数だ。
「今後、プロで大谷選手のような二刀流を目指したいという選手が少しずつ増えていくかもしれません。それは、ものすごく困難な道に挑むということ。その価値を考えると、軽く使われ過ぎな気がします」(前出の元スポーツ紙記者)
真に価値のある挑戦だけを「二刀流」と言えばいいのかもしれない。(AERA dot.編集部・國府田英之)