逆に憶病な性格ながら大成した名馬も数多くいる。1970年代半ばに「狂気の逃げ馬」と称され、75年の皐月賞とダービーの二冠を制したカブラヤオーは、実は他馬が近くにいるのすら嫌がる臆病な性格だった。その事実を隠すための苦肉の策が、競りかけられることすらさせない大逃げ戦法だったのだ。
逃げ馬にはこうした気性面の問題から逃げざるを得なかった馬は多く、大逃げを連発した人気者ツインターボなどもそうだったという。『ウマ娘』でも普段は自信満々ながらところどころで弱気なところを見せるキャラとなっている。
白いシャドーロールがトレードマークの三冠馬ナリタブライアンも、デビュー前は調教中に水たまりに驚いて鞍上を振り落とすほど臆病だった。あのシャドーロールもレース中に自分の影を怖がって集中できない問題を、下方への視野を遮ることで解決するためのもの。これが奏功し、ナリタブライアンは安定した走りで三冠馬へと登り詰めた。
激しい気性で一筋縄ではいかない馬も、臆病で手のかかる馬も人間のサポートしだいで大成できる可能性を秘めているのが競馬。それぞれの持つ個性も込みで「推し馬」を見つけるのも競馬の楽しみ方なのかもしれない。(文・杉山貴宏)