絵:チャンス大城
絵:チャンス大城

  伊丹の定時制高校に通っていたとき、高校の創立60周年記念行事かなんかで、風船の中に将来の夢を書いた紙を入れて飛ばすというイベントがありました。

 同級生たちは、「将来は美容師になりたい」とか「料理人になりたい」とか書いて風船に入れている。僕は夢とかじゃなくて、

「僕は心臓が右にあります。内臓が逆についてます」

 と書いて、自宅の電話番号も書いて、風船を飛ばしたのです。

そうしたら、3日後に電話がかかってきました。かけてきたのは、8歳の女の子でした。

「もしもし、風船届いたよ。私も心臓が右なの。よかったら今度の日曜日に会いませんか。御影駅にお昼の12時」
「はい。わかりました」

 御影は阪急電鉄神戸線の駅です。

 約束の日曜日、電車で御影駅に向かいながら、

「こんな遠くまで風船飛んだんや」

 って驚きました。御影駅は僕の家がある武庫之荘駅から、五駅も離れているのです。

 御影駅について改札を出ると、「ミッキーマウスのTシャツを着た女の子」を探しました。それが約束の目印でした。

 駅前を見回すと、ミッキーマウスのTシャツを着た女の子が本当に待っていました。

「お兄ちゃん、私も心臓が右なの。お兄ちゃん、心臓さわらして」
「ええよー。ほら、ここや」
「あっ、本当だ。右に心臓がある。ドキドキしてる」
「そやろ」
「お兄ちゃん、私の心臓もさわって」

 女の子の胸に手を当てて心臓を探していたら、僕は警察につかまってしまいました。

 不安に思ったご両親がついてきていたらしく、交番に通報したんですね。

 交番に連れていかれお巡りさんに質問されました。

「ふたりは、なんで会ってんの」
「今日、初めて会ったんです」
「だから、なんで会ってんのって聞いてるんや」

 誘拐犯と間違われたみたいです。

「あのー、実は、僕は心臓が右にあって、そんで高校の60周年記念で風船にそのことを書いた紙を入れて飛ばしたら、偶然に心臓が右にあるこの子がその風船を拾ってくれて……」
「なんや、ええ話やないかい」

 お巡りさんは感動していました。

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