1点を追う桐生第一は2回、5番・森翔平の中越え二塁打と四球で1死一、二塁。長打が出れば一気に逆転のチャンスで、次打者・菊池智は、福田治男監督の指示どおり、永井秀和の初球を上から叩きつけるようにして、素直に打ち返した。

 ハーフライナー気味の打球は、右前安打と思われたが、前進してきた右翼手がダイレクトキャッチに失敗し、右側をすり抜けてフェンス際を転々。この間に菊池は50メートル6秒4の快足を飛ばして三塁を回ると、スピードを緩めることなく、本塁にヘッドスライディングした。

 タイミングは間一髪ながら、判定は「セーフ!」。この瞬間、逆転ランニング3ランによって、夏の甲子園通算1000号が達成された。

 群馬大会では打率.235と不調だった菊池は、この日は守備力を買われてスタメン起用されたとあって、「夢中で走った。言葉にできないくらいうれしいです。今大会の1号目が甲子園通算1000号になるのは知ってたけど、まさか僕が……」と信じられない様子。それもそのはず。自身にとっても、まさかの公式戦初本塁打だった。

 ちなみに甲子園第1号は、同球場がオープンした大正13年(1924)の第10回大会の開幕試合で、静岡中の田中一太郎が記録した満塁弾だが、これもランニングホームランだった。

 その後、菊池は2試合続けてスタメン落ちも、3試合ぶりにスタメン復帰した準々決勝の岩国戦でもタイムリー二塁打を放ち、チームの4強入りに貢献した。

“ダメもと”で試みた隠し球がまんまと成功したお蔭で、1対0の逃げ切りに成功したのが、87年の帝京だ。

 3回戦の横浜商戦、0対0の7回に木村亨のタイムリーで虎の子の1点を挙げた帝京は、勝利まであと2人の9回1死から内野安打を許し、1死一塁となった。

 執念のヘッドスライディングで間一髪セーフになった打者走者・滝沢貴弘は、泥まみれになったユニホームで立ち上がり、喜びをあらわにした。

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勝負を決めたのは「引っかけるつもりはなかった」という隠し球…