橋本龍太郎氏とは、エベレストを縁に奇妙な友情で結ばれていた
橋本龍太郎氏とは、エベレストを縁に奇妙な友情で結ばれていた
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 参議院選挙への出馬が何回も噂された「アルピニスト」野口健。元総理の橋本龍太郎とは、エベレスト登山を契機に育まれた、年齢を超えた不思議な関係だった。橋本から自民党から参議院選挙出馬のチケットを手に入れた野口健。しかし、家族や周囲の反対もあり、最後まで選挙に臨む態勢をつくれなかった。野口健のマネージャーを計10年務めた小林元喜氏の著書『さよなら、野口健』(集英社インターナショナル)から一部抜粋して紹介する。<前編から続く>

*  *  *

 結局、選挙については態勢がつくれず時間だけがただ過ぎていった。小笠原から戻り、すぐに橋本龍太郎事務所に謝罪に赴いた。野口が出馬辞退を告げると、橋本は「もう貴様とは絶交だ」と怒鳴った。

■無言の煙草

 野口は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。何かを言いたいのだが、何を言っていいのかわからない。「今までお世話になりました」とだけ告げ、頭を下げた。

 橋本は窓の外を見ながら「何もしてない」と言う。

「いや、私のほうで勝手に感謝させていただきます。ありがとうございました」

 そう言い残し、野口は事務所を出た。その足で近くの大きめの書店に駆け込んだ。本を読むふりをしながら、野口は最後のシーンを何度も頭の中で再現する。

「終わっちゃったなあ。なんだか最後、悲しかったなあ」と口に出すと涙が出てきた。

 それから何日かが過ぎた。橋本から野口宛に葉書が届いた。そこには「最近はどうしてる? 元気かい? たまには顔でも出して」と書いてある。野口はすぐに事務所に向かった。すると橋本が「久しぶりだね。最近は楽しいことあったか?」と、自分のネクタイをくねくねと触りながら聞いてくる。

「久しぶりですね」と答えながら、いや、ついこの前会ったばかりだぞ、と野口は思う。

 二人は無言のままだ。橋本の煙草の本数だけが増えていく。野口は「一体これは何の儀式だ」と思いながらも喜びを隠せなかった。

 二〇〇四年七月のことだった。日歯連闇献金事件のニュースが流れた。二〇〇一年七月に橋本と青木幹雄、野中広務が日本歯科医師連盟会長、理事と料亭で会食。その際に一億円の小切手を受け取ったが、この献金を収支報告書に記載していなかった、というものであった。報道が連日続き、橋本はマスコミの攻勢にあっていた。

 野口の公式サイトには「橋本龍太郎との思い出」というコーナーがあり、二人の写真がたくさん掲載されていた。サイトにあった掲示板には、報道の過熱に比例するように野口と橋本の関係を非難するコメントが相次いだ。

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