「負けたときは、“ああ、終わったなあ”という感じ。悔いはなかったす。いや、もう精一杯やったからです。最後は笑っていたように見えた?笑っていたってわけじゃなく、泣いて終わりたくなかったんで」と振り返ったダルビッシュは、9回のエラーについても、「エラーは誰にでもあるんで」とチームメイトを庇った。

 春夏計4度出場した甲子園を、ダルビッシュは「人間として成長させてくれる場所でした」と表現している。

 雨が降りしきる中、サヨナラ押し出し四球で最後の夏が終わった作新学院時代の江川卓も、甲子園目前の県大会決勝で敗れた愛工大名電時代のイチローも、涙を見せることはなかった。

 連日マスコミ攻勢の渦中にあった江川は「これからは勉強に馬力をかけ、できるなら旅をしたい」と普通の高校生に戻れる安堵感を口にし、プロ入りという新たな目標にいち早く気持ちを切り替えたイチローは、敗戦の翌日からグラウンドで下級生たちにまじって汗を流した。

 泣かなかった理由は各人さまざまだが、今夏の甲子園でもどんな人間ドラマが生まれるか注目したい。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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